「平成レトロ」は〝ネット検索しても出てこない文化〟 発掘の原点は「ファンシー絵みやげ」だった

北村 泰介 北村 泰介
新刊「平成レトロの世界」を手にする著者の山下メロ氏。忘れ去られた平成グッズを「保護」している=都内
新刊「平成レトロの世界」を手にする著者の山下メロ氏。忘れ去られた平成グッズを「保護」している=都内

 ポケベル、プリクラ、たまごっち…。「平成レトロ」が今、ちょっとしたブームになっている。改元によって〝近過去〟になった「平成」という時代ならではの文化を懐かしむという趣向だが、一方では忘れ去られたまま、ネット検索しても出てこない存在を掘り起こすコレクターの使命感がこの言葉には込められている。提唱者である平成文化研究家・山下メロ氏(41)が膨大なコレクションから厳選した989点のアイテムを掲載した新刊「平成レトロの世界」(東京キララ社)を出版した。同氏に話を聞いた。

 山下氏は1981年、広島生まれの埼玉育ち。平成の前半期となる主に90年代からゼロ年代に残された文化の「保護」を訴えている。2020年にTBS系「マツコの知らない世界」に出演して「平成レトログッズの世界」を発信し、ブームの火付け役となった。

 昭和レトロに比べると、平成レトロは「あるある感」が少ないという。トレンドのサイクルが早く、幅広い世代によって共有されていないジャンルも多いためだ。

 時代の波間に消え、忘れ去られたグッズたち。その一つが「ファンシー絵みやげ」だった。昭和末期から平成初期にかけて観光地の土産店で販売されていた子ども向けの雑貨みやげで、キーホルダー、通行手形、のれん、食器、文房具などに、擬人化された動物や二頭身くらいの人間のキャラクターなどのイラストが描かれいる。

 「販売時期は79年が始まりで、昭和が10年、平成が5年くらい。93年に発足したJリーグのモチーフも存在しますので、その頃までは新作が作られていたのは間違いないんですけど、既に下火になっていたのかもしれません。当時、業界内では『ファンシー』という呼ばれ方をしていたみたいですけど、一般的に認識された名前(総称)がなかったのです。全国流通じゃないし、常日頃、意識するものでもないので忘れられていきました。私は小学生の時に買っていたんですが、全部捨ててしまいました。それが、30歳くらいになってフリマで20年ぶりくらいに再会。『忘れていた』と思って検索しようとしたら、まず検索のワードが分からない。『名前がない』ことに気づいたんです。少し前まで全国の観光地でむちゃくちゃ売られていたのに、ネットに情報が全く残っていない。文化って放っとくとマジで消えていくんだということに気づいて怖くなり、集め出しました。『ファンシー絵みやげ』と名前を付けて」

 一般的には「取るに足らないもの」扱いされたニッチなジャンルが、山下氏にとって人生をかけた活動の原点となった。会社を辞め、平成も終盤となる2013年頃から本格的な収集活動を始めた。

 「名前がないからヤフオクなどで探しづらく、フリマも含めて販売される数も少ないので、全国を回って残されたものをひたすら買いました。地方の土産店でも店頭にはほとんどなく、問屋さんの倉庫に10年、20年、整理されていない在庫から保護させていただくことも。今はツイッターで情報をいただいたり、お店から連絡をいただくこともあったり。これまで2万種類以上を保護しましたけど、あまり商品がダブらないんですよ。たぶん10万種類以上は作られていたでしょう。そんな分野はあまりないと思います」

 山下氏による「保護」という言葉が、この活動の意味を示している。検索すれば情報が出てくるのが当たり前と過信されがちなネットの世界にあって、「なかったこと」にされている対象もあるということ。こぼれ落ちた時代の記録を「保護」するという行為が、同氏の提唱する「平成レトロ」に結びつく。

 「なんでもネットに記録されているという『油断』が世の中にあるんじゃないか。実際、『ファンシー絵みやげ』はなかったわけですし。まだネットがあまり普及していない90年代のものこそ、今、全然、ネットになかったりするし、当時のガラケーやデジカメの低解像度な画像しかなかったりします。そこから『平成レトロ』というスローガンを打ち出すに至ったという感じですね。今の暮らしに慣れると、ほんの十数年前の事でも忘れてしまいます。今、平成レトロの特番をテレビで頻繁にやっていて、ネットでは『懐かしい』だけじゃなく、若い世代からの『全然知らなかった。こんな時代あったんだ』という反応もあります。新刊がそういう方たちの手引きになれば。今後は、いろんな分野の人が登場して再発見されていくと思うし、そうなって欲しいですね」

 「平成レトロ」はノスタルジーだけでなく、こぼれ落ちた隙間文化の発掘作業につながっている。

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