伝説の音楽レーベル「ベルウッド」50周年で〝ラスト〟公演 名プロデューサーが明かす半世紀前の舞台裏

北村 泰介 北村 泰介
ベルウッド・レコードの名盤を手に破顔一笑のプロデューサー・三浦光紀氏。今も現役としてアナログ盤を世界に発信する=都内の同社
ベルウッド・レコードの名盤を手に破顔一笑のプロデューサー・三浦光紀氏。今も現役としてアナログ盤を世界に発信する=都内の同社

 日本のフォーク/ロック黎明期の1972年に設立され、後世に多大な影響を残した伝説のレーベル「ベルウッド・レコード」の50周年記念コンサートが11日、東京・中野サンプラザホールで開催される。同レーベルを立ち上げたプロデューサーで音楽事業家の三浦光紀氏(78)が、よろず~ニュースの取材に対し、半世紀への思いや今後の新展開を語った。

 同レーベルは72-78年に活動(2001年から第2期活動中)。作品のクオリティーに重きを置き、米カリフォルニアの音楽現場から吸収したサウンドや録音技術にもこだわった名盤を次々にリリースした。その出発点は岐阜・中津川で開催された全日本フォークジャンボリーだった。

 「70年に、その前から仕事をしていた小室等さんと六文銭が出るというので中津川に行くと、『はっぴいえんど』が岡林信康さんのバックをやっていて、これはすごいなと。高田渡さんもいた。翌71年にはあがた森魚さんと『はちみつぱい』とも出会った。中津川で出会った人たちとの縁で、類は友を呼ぶように多くの天才アーティストが集まった」

 〝類は友を呼ぶ〟一例となったエピソードがある。あがたはベルウッド第1弾アーティストとなる前、三浦氏の自宅に居候していたという。

 「あがたさんは(穀類では)玄米しか食べないので、僕は玄米用の炊飯器まで用意しました。ベルウッドのスタート準備をしていたある時、あがたさんが西岡恭蔵さんと友部正人さんを連れて、僕が住んでいた早稲田のマンションに遊びに来ました。3人と音楽の話をしているうちに、それぞれの持ち歌を披露する流れになり、恭蔵さんが『プカプカ』、友部さんが『一本道』を歌いました。恭蔵さん本人の歌う『プカプカ』を初めて聴いて、ぼくとつで人間味ある声に魅了され、『レコードを出したくなったら、いつでも声を掛けて』と誘いました。友部さんの『一本道』も聴いた途端に、後世に残る名曲だと思い、ベルウッドの第1弾シィングルとして、あがたさんの『赤色エレジー』と同時発売したいとお願いし、レコードを出させていただきました。夢のような出来事でした」

 ちなみに、レコーディングのバッグバンドは「はっぴいえんど」と「はちみつぱい」。さらに「バックコーラスは山下達郎さん、大貫妙子さん、吉田美奈子さん、たまに矢野顕子さんたちです」(三浦氏)。近年、世界的に注目されているJ-POPを代表するソロアーティストたちだ。「2年くらい前から日本のアナログレコードが海外で評価されている」。そう付け加えた三浦氏は、日本発のアナログ盤を海外に流通させる事業を始動している。

 「僕はサブスクでいい曲を見つけたら、アナログ盤で買うことにしています。好きなアーティストはモノとして持ちたい。サウンド的にもアナログ盤は配信やCDではカットされる音域まで全て入る。今後、ベルウッドのカタログごとNFT(※複製や偽造ができない証明書を付けたデジタルデータ)化することで、世界中の若い人たちに聴いてもらえる環境を作れたらいいなと」

 そうした業務の中、節目の50周年ライブが迫ってきた。所属アーティストだった小室、あがた、鈴木茂(はっぴいえんど)、伊藤銀次(ごまのはえ)、鈴木慶一×武川雅寛(はちみつぱい)、いとうたかお、大塚まさじ(ザ・ディラン2)、中川五郎らが出演。同レーベルのファンで、自身もバンド「タイムスリップ」など音楽活動に取り組んできた俳優の佐野史郎、高田さんをリスペクトする、なぎら健壱、母(森山良子)が三浦氏と仕事で接した縁もある森山直太朗がゲストで登場する。

 「大瀧詠一さん、渡さん、恭蔵さん、加川良さんが亡くなっていて、残ったメンバーでベルウッドとして一緒にやるのは最後だと思います。ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』(※映画化もされた76年の解散ライブ。ボブ・ディラン、ニール・ヤング、エリック・クラプトンら豪華ゲストが集結)みたいな感じかなと。50年間、支えてくれたファンの人たちにダイレクトにお礼をする場。ベルウッドでしかできない音楽をお届けしたい」

 最後に問うた。ベルウッドとは何だったのか。

 「学校に例えると小学校です。大瀧さん、細野晴臣さん、渡さん、小室さん、あがたさん…と、彼らのファーストアルバムをベルウッドから出している。最初のアルバムには、アーティストがそれまで生きてきた人生が凝縮されていて、作家性が強く出ています。商業的価値より文化的価値を重要視してきました。詩人の谷川俊太郎さんが『ベルウッドの人は全員詩人だ』とおっしゃったように、詩人が集まったレーベルでもある。また、今で言う音楽オタクや録音オタクが集まって独自のサウンドを確立した。これから先もNFTのプラットホームで世界に届けていきたい」

 80代を前にして、三浦氏の果てしない音楽の旅は続く。

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