ゴッホの自画像など歴史的な名画に扮したセルフポートレイト作品で知られる美術家の森村泰昌氏(71)が、「アートの後始末ができないか?」と着想したプロジェクト「アート・シマツ」を立ち上げた。個展で使用され、廃棄物となった約2500平方メートルのカーテンを有料で賛同者に提供し、新たな活用法をともに模索する。コピーライターの糸井重里氏(73)が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」と共同で実施。京都・京セラ美術館で開催された大規模個展「ワタシの迷宮劇場」(3月12日~6月5日)で、会場を迷宮のように仕切った、高さ5メートルの膨大な量のカーテンが、プロジェクトの材料となる。
森村氏は「美術館での展覧会を無事に終えて、いつも思うことがある。『もったいないなあ』と。立派につくってもらった展示会場も、終わればすっかり解体される。大量に印刷したチラシやポスター、特注の陳列棚や台座、バナー、ときには展示室に置くベンチを新たにつくることもあるが、祭りが終わればすべてが廃棄物となる。ステキな展覧会が実現できて『作家としてのわたし』はうれしいけれど、後始末もせずにさっさと退散というのは、『人間としてのわたし』としては、なんだか悔いが残る。そこで考えた。展覧会が終わった後の始末にも想像力をたくましくしてはどうだろうか、と。芸術家なんだから、なにごとにおいても想像力をたくましくするのは悪くないはずだ。こうして思いついたのが『展覧会の後始末計画』つまり『アート・シマツ』である」と経緯を説明した。
そして「展覧会が終わったあと、捨てられるのを待つだけのさまざまな廃棄物を、日々の生活に役立つものとしてふたたび活かせないものだろうか。斬新な展覧会を企画することも、展覧会の『アート・シマツ』に工夫をこらすことも、ミュゼオロジー(博物館学)の一貫としてとらえてみたいと思うのだ。展覧会が終わっても、まだまだ、おもしろいことがつづく。なかなかいいんじゃないだろうか。なにかの終わりは、なにかの始まりだってよく言うじゃないか」とプロジェクトのテーマを掲げた。
カーテンは高品質な遮光性生地で仕立てられ、分量は面積にして約2500平方メートル。〝ほぼ日〟(ほぼ日刊イトイ新聞)の担当者は「このカーテンの生地を、『うまく活用できないか』というのが森村さんの思いです。方法や詳細は未定ですが、このカーテンの生地を『経費を賄える価格+αくらい』(ふつうに買うよりも、かなり安く、という意味)でお譲りしたいと思っています。『展覧会が終わっても、まだまだ、おもしろいことがつづく』それが、森村さんのやりたいことの核であり、ほぼ日が共感した部分です。お譲りするかたがたに、お好きなように楽しんでいただきたい。廃棄されるはずだったカーテンを有効活用することで、このプロジェクトの趣旨にご賛同いただくこと、『ワタシの迷宮劇場』の〝かけら〟が、日本各地に残されていくことが、このプロジェクトの、もっとも大きなよろこびだと思っています」と説明した。
専用サイトが立ち上がっており、今後は1カ月ほど活用アイデアなどのアンケートを実施。提供方法、料金設定などを検討する。来年の春先までをメドに、提供を開始予定。ほぼ日の担当者は「引き取ってくださったみなさんが、どのように有効活用しているか、可能でしたら取材させていただき、その結果を、日本地図にマッピングしてみたい。あの『ワタシの迷宮劇場』の〝かけら〟が、こんなところで、こんなふうに生きているんだという、『アート・シマツの地図』をつくれたらいいなと思っています。多くのみなさんのご協力を、森村泰昌さんと一緒に、ワクワクしながらお待ちしています」と呼び掛けた。