『鎌倉殿』畠山重忠、悲劇的な最期を迎えた理由 「戦など誰がしたいと思うか!」22年の今、突き刺さる言葉

濱田 浩一郎 濱田 浩一郎
イメージです(tk2001/stock.adobe.com)
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 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の第36回「武士の鑑(かがみ)」で描かれた畠山一族の過酷な運命が話題となっています。

 京都守護・平賀朝雅と、畠山重忠の息子・重保との都での口論。どのようなことで口論となったかは不明ですが、朝雅は、喧嘩の件を根に持ち、自分の妻の母である牧の方(りく、北条時政の後妻)に、重保の悪口を吹き込んだようです(鎌倉時代後期の歴史書『吾妻鏡』1205年6月21日条)。

 牧の方は、悪口を信じ「畠山重忠父子を殺してしまおう」と考え、そのことを夫の時政に告げたとのこと。殺してしまおうとまで考えるのですから、朝雅は、畠山に謀反の兆しありとか何とか極端なことを牧の方に言ったのかもしれません。

 時政は畠山討伐の意向を先ず、我が子の北条義時と時房(北条義時の弟)に伝えます。しかし、両人ともが討伐に反対するのです。「重忠は、治承四年以来(源頼朝の挙兵以来)、源家に忠義を尽くしてきました。頼朝様もその志をよく理解し、我が子孫を守護してほしいと慇懃なお言葉を重忠にかけられました。比企一族との戦の際も、我らの味方になってくれたではありませんか。また、重忠は、お父上の婿でもある。それがなぜ今更、叛逆など致しましょう。重忠に度重なる勲功があるにもかかわらず、軽はずみに征伐などされては後悔しましょうぞ。謀反の罪があるか否か、糺してからでも遅くはありますまい」と。

 まさに正論。正論過ぎて時政は反論できなかったのでしょう。何も言わず、席を立ったといいます。義時は邸に帰りますが、そこに牧の方の兄・大岡時親が「牧の方の使い」としてやって来る。時親は義時に牧の方の言い分を伝えます。

 「畠山重忠の謀反は既に発覚している。よって、将軍のため、世のため、時政殿にそのことを知らせたのに、聞いたところによると、貴方の言い分は、重忠の謀反を許そうというもの。私は貴方の継母。だから悪者の讒言者にしようというのですか」ーこの言葉を聞いて、義時は「もう一度、よく考えてみましょう」と返答するのです。これ以上、反抗・反論したら、場合によっては、牧の方は自分(義時)を殺すよう仕組むかもしれないと危惧したのかもしれません。

 そしてとうとう、悲劇の日(6月22日)がやって来ます。この日の早朝、鎌倉中が騒然とし、軍兵が行き交います。何でも「謀反人を征伐する」とのこと。

 畠山重保はこれを聞いて、自分もそれに加わろうと、従者を連れて由比ヶ浜に向かったところ、北条時政の命令を受けた三浦義村が、重保の軍兵を包囲。重保主従は、衆寡敵せず、討ち取られてしまいます。

 重忠も武蔵国から鎌倉に参上するとの情報があったので、今度は重忠を討ち取ろうということになる。重忠の軍勢は百騎ばかりだったと言います。謀反をするなら、もう少し軍勢を揃えて挙兵するはずです。ここからも、謀反はでっち上げということが分かるでしょう。重忠は途中で、息子が殺されたこと、自分を殺すために軍勢が派遣されたことを知ります。

 本拠に戻りそこで軍勢を蓄え戦(いくさ)をしましょうとの意見もあったが、重忠はそれを拒みます。「家を忘れ、親を忘れて戦うのが武将の本来の姿である。よって重保が討たれた今、本領を顧みることはない。以前から陰謀を企んでいたように思われるのを恥と感ずべきだ」と言うと、前進していくのです。そこに討伐軍が襲いかかります。

 よく見ると、重忠の弓馬の友(安達景盛)の姿も。景盛は真っ先に攻め込んできている。その姿を見て、重忠は「旧友が真っ先に我が軍に攻め込んでくる。これが感動せずにおられようか」と感激するのでした。これは、武将にしか分からない心理というべきでしょうか。重忠の軍勢は、小勢にもかかわらず、獅子奮迅。幕府方の軍兵も重忠軍に討ち取られています。しかし、重忠は敵の放った矢に当たり負傷。ついに討ち取られてしまうのです。

 ドラマでは、重忠演じる俳優・中川大志さんの熱演が光りました。北条義時(小栗旬)との一騎打ちのシーン、そして組み討ち。鎌倉武士の荒々しさが伝わってきました。「戦など誰がしたいと思うか!」という重忠の叫びは、2022年を生きる我々には特に突き刺さる言葉ではないでしょうか。

 さて翌日、幕軍は鎌倉に帰還します。義時は父・時政に改めて、今回の戦の不義を説くのです。「畠山軍は僅か百騎。これで謀反の疑いありというのはおかしい。重忠は讒言により、征伐されたのです。何と気の毒なことか。私は、首実検で、重忠殿の首をみた。友人としての親しみを忘れられず、涙を止めることができなかった」と。義時は父に怒りをぶつけますが、時政はまたもや無言。不穏な空気を残しつつ、こうして、畠山重忠の乱は幕を閉じるのです。

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