「戦争めし」魚乃目三太 初の画集「目で見ておいしそうよりも、口に入れておいしそうが理想」

山本 鋼平 山本 鋼平
画集『魚乃目三太のマンガめし画帖』のカバー(帯付き)
画集『魚乃目三太のマンガめし画帖』のカバー(帯付き)

 〝食べることは、生きること〟をテーマに「戦争めし」、「宮沢賢治の食卓」などで注目を集める漫画家、魚乃目三太(47)のデビュー15周年を記念した画集「魚乃目三太のマンガめし画帖」(玄光社)がこのほど発売された。魚乃目は「絵が下手な僕が画集を出してもらえるなんて。うれしいとしか言いようがない」と感謝を口にした。だがそこには、自信がないからこそ、深まった味がしみこんでいた。

 160ページ全カラー印刷、どこか懐かしくて美味しそうな料理イラストを掲載。作品の歴史背景とともに紹介し、日本人の心の原点を“食”に探る。

 魚乃目は建設会社勤務の現場監督から漫画家に転身。2010年創刊の漫画雑誌「思い出食堂」(少年画報社)の第2号から表紙、オムニバス形式の作品を発表し、出世街道に乗った。「戦争めし」「ちらん〜特攻兵の幸福食堂〜」「宮沢賢治の食卓」「なぎら健壱 バチ当たりの昼間酒」などの食マンガを次々に発表。今年から「別冊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載を開始した「はらぺこ銀河(ギャラクシー)」はSF要素が強く、新たな題材にも挑戦している。

 「『思い出食堂』で2カ月に1回、カラー表紙を描き始めたのが転機でした。僕は絵が下手で、特にキャラクターを描くことが苦手。キン肉マンやドラえもんのようなキャラクターを作ることができません。家庭や食堂などの舞台、それにふさわしい人々、サラリーマンの喜怒哀楽、女性の指で光る指輪とか…自信がないので登場人物の背景を盛り込んだ食事の様子をイラストにして、読者の思い出と、どこかで共感できるようなものを目指しました」

 一品の料理、一人のキャラクターが突出することはない。取材を重ね史実を反映させた「戦争めし」「宮沢賢治の食卓」でも同様で、キャラクターや料理だけでなく、のどかな田舎風景、雄大な空、戦闘機やジャングルも等しく存在感を示す。背景さえも登場人物のような、さながら群像劇といったイラストは、ストーリーづくりにも共通する。

 「腰の曲がったおばあさんが、家でフランス料理をつくっていたら変ですよね。そこは煮物や梅干しが登場してほしい。海の見える食堂なら、きっと魚定食を食べたくなるでしょう。料理が決まれば、キャラクターも決まってくる。どちらか片方からだけではなく、設定やストーリーをつくっています」

 取材先で出会った料理は、建物内の様子、外観、周囲の風景も撮影し、取材メモとともに、当時の心境や思い出を形に残す。料理が持つ関係性を作品に生かす。イラストで目指すもの、作画の変遷を、優しい口調で説明した。

 「目で見ておいしそうよりも、口に入れておいしそうな絵が理想です。ご飯では、米粒が立っているとおいしいと言われていたので、昔は一個一個、米粒を描けば描くほどいいと思っていました。最近は何粒もまとめたご飯の絵でも、米粒があると想像できるようなもの、食感を意識しています。他にはスポンジケーキと、たくあんの線が同じにならないように気を使っているのですが、これは分かりづらいかもしれませんね。マンガを描き慣れてきたのか、線は少なくなってきたと思います」

 学生時代はいしいひさいち、浦沢直樹の線の少なさに衝撃を受けたという魚乃目。描線の減少という変化を、前向きに捉えているようだ。

 画集では「戦艦大和のラムネ」、「零戦の空弁」などを紹介し、旧日本陸軍・海軍の食糧事情、そして寿司や鰻のタレなど戦火に負けず守り継がれた日本の食文化を解説。町中華に立ち食い蕎麦、おでんの屋台などの庶民派グルメ、〝家族のあり方〟を食卓に探す魚乃目作品に迫る。描き下ろしイラスト、特別インタビューなどを掲載。「昼のセント酒」でタッグを組んだ漫画原作者、久住昌之は「『お腹が減るって、悲しいよな。でも食べると、悲しくなくなるよな。人間って、ちっぽけで、笑っちゃうな』というのが、たぶんボクらのマンガです」と魚乃目作品を解説した。

 デビュー15年。人気作家となり「たくさんの作品を描かせて頂き、本当にありがたい」とさらなる意欲を燃やす魚乃目三太。「戦後70年の節目での単行本化を目指して始まった『戦争めし』ですが、戦後80年が見えてきました。担当者とは、戦後100年まで続けよう、と話しています。あと23年、語り部を続けたいですね。もう一つは〝建築めし〟を描きたいんです。土木科出身で現場監督をしていたので、戦国時代の築城ものをマンガにしたい」。15周年は単なる通過点。さらなる夢を膨らませていた。

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