山口県阿武町の誤送金問題で、電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕された24歳男性が、4630万円が誤って振り込まれたと知りながら「全額オンラインカジノで使った」と供述したことで、オンラインカジノに注目が集まっている。そんな中、ギャンブルやアルコールの依存症問題に関わる当事者・支援者らで構成する「依存症問題対策ネットワーク」は10日、岸田文雄首相や関係省庁に、オンラインカジノへの法規制を求める要望書を提出。日本国民にオンラインカジノを提供する海外事業者に賭博場開帳等図利罪を適用し、サイトへのアクセスを阻止するよう法整備を求めた。
同ネットワークのギャンブル依存症問題を考える会・田中紀子代表らが都内で開いた会見には、オンラインカジノにはまり1000万円を超える借金を作った都内在住の40代男性・なおさん(仮名)が出席。5月に同会のセミナーに参加し、支援を受け始めたなおさんは、30秒で60万円を賭けるまでになった依存体験を語り「オンラインカジノは完全に違法であるという認識が世間に広まってほしい。オンラインカジノが違法であると分かれば、利用するハードルが高くなる」と訴えた。
なおさんは一見、ギャンブルにハマるとは思えないタイプ。優しそうな2児のパパだ。もともと競馬やパチンコが好きだったが、2020年4月のコロナ禍による緊急事態宣言で場外馬券売場やパチンコ店が休業。オンラインカジノを勧めるアフィリエイト広告を見て、1ベット100円から気軽に手をつけたという。
会社の在宅勤務も重なり、スマホでいつでもできるオンラインカジノにのめり込んでいった。「競馬は12レースで終わり。パチンコも閉店時間があるが、オンラインカジノは24時間365日できる。お昼休みや業務時間、オンラインミーティング中でもスマホでできてしまう。仕事に支障をきたしたし、家にいても電車に乗っていてもできる。ギャンブルをしたいという衝動が抑えきれない」と振り返った。
30秒のルーレットで最高7200ドル(約97万円)をゲットしたというなおさん。射幸性が高く、100万円が動くこともザラだという。「勝っている時は〝あの快感をもう一度味わいたい〟と思うし、負けているときは成功体験があるためガツンと取り戻そうとする。結局、お金が無くなるまでやめられない。金銭感覚がまひして、お金じゃなくてただの数字に見えてしまう」と、怖さを語った。
クレジットカードで賭け金を入金できるため、消費者金融で借金ができなくなると所持するカード数枚の限度額いっぱいまで使った。「気がついたら1年くらいで1000万円を超える借金を使っていて、どうしようもなくなった。うつ病も発症しました」。妻ら家族とともに住むマンションを売りに出し、返済に充てるという。
ギャンブル依存症問題を考える会の田中代表によると、2021年に同会に寄せられたオンラインカジノに関する相談件数は、コロナ禍前となる19年の2.5倍に急増した。「コロナによるステイホームで、暇な時間が増えたのが大きな要因。オンラインカジノは借金の額が数千万円単位と桁違いに多く、依存症になるまでの時間が短い。海外サイトが日本を狙い撃ちにしている。政府が何も対策をとらず、対抗手段を講じないのは怠慢。若い子の未来を奪っている」と警鐘を鳴らした。