手塚治虫文化賞で史上最年少マンガ大賞「チ。」魚豊「僕の漫画は僕に必要」

山本 鋼平 山本 鋼平
来賓あいさつを行った手塚プロダクション取締役の手塚眞氏
来賓あいさつを行った手塚プロダクション取締役の手塚眞氏

 マンガ文化の健全な発展に寄与することを目的に、朝日新聞社によって1997年に創設された「手塚治虫文化賞」の第26回受賞作の贈呈式が2日、都内で行われ、「チ。―地球の運動について―」(小学館)でマンガ大賞に輝いた魚豊さん(25)は「僕の漫画は他の誰でもない、僕にとってすごく必要だからです」と創作の動機を語った。

 受賞決定時は史上最年少24歳だった。偉業を手にした青年は「社会問題や漫画の記号表現に触れたりしようかと思ったんですけども、そんなに言えることはなくて。自分は漫画で描けることが全然ない人間です。特殊な人生を送った訳でもないし、マジョリティー側でのほほんとやってきたから、シリアスな問題に直面して悩んでいる人に届く言葉もない。面白い漫画が読みたかったら過去の膨大な名作を読めばいいですし」と、自身の立ち位置を冷静に語った。その上で「僕が描く意味なくない?っていう話ですけど、僕もそう思って悩んだり不安になることもないわけではないんです。だけど、そういう不安を凌駕するくらい僕には自信があって。なぜかって言うと、僕の漫画は他の誰でもない、僕にとってすごく必要だからです。漫画は僕に勇気を出させて、挑戦させて、冒険をさせる要素があります。自分の漫画は自分しか描いてくれない、というのがあります」と創作の理由を明かした。

 受賞作は15世紀の欧州を舞台に、禁忌とされた地動説を命がけで研究する人間の生き様と信念を描いた。主要登場人物が次々に落命しながら物語が進展。2020年9月から今年4月まで「ビッグコミックスピリッツ」で連載された。魚豊さんは「こういう賞をいただくと、人から褒められるためにやってるんじゃないかと勘違いしそうになるんですけれども。9割は褒められる側でも、残りの1割は自分の初期衝動、自分に届く言葉、自分に刺さる場面を探したいと思って始めたので、この機会にもう一回初心に戻って、その根底は一歩も引かず、退却せず、ここから積み上げていって、副次的に将来につながればいいかなと思います」と決意を述べた。

 選考委員の南信長氏は「例年だと候補作からいくつか絞り込まれ、そこから議論を重ねるという形なんですけれども、今回は1巡目、満場一致で『チ。』がふさわしいということになりました。全くもめることなく決定されたました」と舞台裏を明かした。

 贈呈式には魚豊さん、「地球の片隅で青春がはじまる」(KADOKAWA)と「今夜すきやきだよ」(新潮社)で新生賞に輝いた谷口菜津子さん、「いいとしを」(KADOKAWA)と「白木蓮はきれいに散らない」(小学館)で短編賞を受賞したオカヤイヅミさんが参加。魚豊さんの撮影は本人の希望で自粛が要請された。

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