東京大学出身者11人が体験した「怖い話」を収録した書籍「東大怪談」(サイゾー)が14日に発売される。著者は東大OBの映画監督・豊島圭介氏。「偏差値75の論理的思考をもつ東大生の頭脳でも説明がつかない怪異とは何か?」がテーマではあるが、単に怪談を羅列するだけではなく、その証言者の思考や感性、数奇な人生体験なども含めた〝十一人十一色〟の人物像を描いている点が注目される。都市伝説や超常現象、オカルトなどを扱うニュースサイト「TOCANA(トカナ)」の元編集長(現在の肩書は「総裁」)で、本書の担当編集者である角由紀子氏は、よろず~ニュースに対して、書籍化の経緯と共に「心霊体験と人の人生の切り離せない関係」を指摘した。
昨今、「実話怪談」がブームだという。角氏は「怪談のバリエーションが豊かになる一方、もうこれ以上新しい怪談は出てこないのでは…と、少し頭打ちの印象があったのですが、昨年、NHKの番組『業界怪談』を見た時に、〝怪異の体験者を職業別に分ける〟という手法があることに驚きました。これまでの怪談は、怪談の現象別・土地別・年代別、そして怪談師の個性でジャンル分けされている印象だったので、怪談師でもない無名の体験者を職業別に分けてエピソードを集めていたので、とても斬新に感じたのです」と発想のヒントを振り返った。
その上で、角氏は「そこで私が思いついたのが『学歴怪談』です。調べてみると、学歴怪談はまだ日本にないジャンルでした。なので、どうせなら日本最高偏差値の『東大怪談』が最もインパクトが強いだろうということで、東大出身の豊島監督に執筆を依頼して本を作ることにしました。豊島監督はホラー作品で監督デビューをしている上、ドキュメンタリー映画『三島由紀夫VS東大全共闘』での卓越した取材力が評価されている人物なので、まさに東大怪談を書くために生まれてきたような人です」と経緯を明かした。
角氏は「『東大』というパワーワードと、ブームである『怪談』が融合すればそれなりのインパクトがある」と手ごたえをつかんだ。そして「傑作になるかもしれない」と思ったのは、その方向性が定まった時だったという。
角氏は「複数の心霊体験を持つ人がいるから、それぞれの現象別にまとめていこう」と豊島監督に提案。「あえて話者のパーソナリティが見えてくるような作りにしない方が、現象が引き立って怖く読めると思ったから」だというが、豊島監督は「これは普通の怪談ではなく、あえて“東大出身者”というくくりを設けた『東大怪談』です。世間とズレた感覚をもつ東大出身者の人となりにも触れた上で、偏差値や育った環境と怪異の関係などを探っていかないと、この本を作る意味がないのではないでしょうか。当然、怪異の本質に到達することもできない、中途半端な本になると思います」と指摘したという。
「そう言われてハッとしました」という角氏。「せっかく東大生でくくる怪談なのだから、話者の人となりを取材して考察することが重要」と覚醒した。
角氏は「これまでそんな実話怪談本など存在しなかったし、少なくとも私は読んだことがなかったので、その選択肢が微塵もなかったのです! どの本も “怪奇現象至上主義”で、話者を徹底取材していたとしても、それを前面に出さないのが鉄則でした。すべての取材は怪異を魅力的に書くために行われる作業だったのです。しかし、豊島さんの提案は逆でした。怪異を面白く書くために人を取材するのではなく、人を取材することで怪異の本質を問うことができるかもしれないという提案だったのです」と振り返り、「その瞬間、『これは傑作になるぞ!』と思いました。実際、『東大怪談』は単なる怪談本ではなく、『人の人生と心霊体験の切り離せない関係性』を明確にした最初の本になったと思います」と自負した。
東大病院で「怪異」に遭遇した40代の男性看護師。「オカルトは想像力や人文学的な視点で初めて認識できる」と力説するスポーツ新聞の30代芸能記者。複雑な家庭環境で育った少年時代に「牛人間」と遭遇した30代編集者。UFOや金縛り体験などを語る元官僚の50代学者。「東大出身」というくくりの中、さまざまな「人間」の姿が垣間見えてくる。
角氏は「人とは何か、心霊体験とは何か。ある意味、哲学の領域にまで踏み込み、人と恐怖の相関を不気味に表現した新しい怪談本をぜひお楽しみください」とアピールした。