北京五輪の熱戦が連日報じられているが、開催地の中国といえば、少子高齢化が国家的な問題になっていることでも知られている。そんな中国では、人間の胚(はい)を人工子宮内で胎児に成長させて世話をする人工知能システム「AIナニー」が開発されたという。「ナニー」とは英国発祥といわれる乳幼児教育、保育を職業とする人を指す言葉で、一時的に世話をするベビーシッターとは違い、しつけや教育を親に代わって行なう「乳母」的な存在としてより密接な関係を築く。女優でジャーナリストの深月ユリア氏は、「AIナニー」に倫理的な問題点がある一方で、妊娠や出産に支障のある女性にとって恩恵となる部分も指摘。その可能性を解説した。
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「子供は欲しいけど、高齢出産が怖い」「子供は欲しいけど妊娠中に仕事を休みたくない」。そう悩まれる女性も多いのではないだろうか。近未来、そんな悩みも解消されるかもしれない。
現在、さまざまな仕事がAIで代替可能になり、昨今のAIテクノロジーの発展もすさまじいが、最新の研究によると、「妊娠」「出産」という女性の大業も「AIナニー」が代替してくれる可能性が示唆されているのだ。
2021年11月16日の中国の医療専門誌「Journal of Biomedical Engineering」に掲載されたリポートによると、 中国科学院傘下の蘇州医用生体工学研究所の研究チームが人工子宮内で胚を胎児に成長させて世話をする人工知能システム「AIナニー(乳母)」を開発したという。
「AIナニー」は妊娠23週よりも早くに出産した超早産の新生児を救うために使用されていた人工子宮の技術を応用している。「長期胚培養装置」と呼ばれる人工子宮容器の中で 栄養と酸素を送り、不要な物質を取り除きながら、マウスの胚を成長させる。24時間監視体制で、人間の目では見つけられないような胚のわずかな変化の兆候をAIが検出し、そのデータをディープランニングすることもできる。さらに、発育状態による胚のランク付けも可能で、胚に重大な損傷が起きた場合は、機械から警告が発される。この技術が応用され、人の胚も育てることができるようになれば、人間の女性の胎内で育てることが必須条件にならず、体外で胎児を安全かつ効率的に成長させる可能性があると、同論文は述べている。
ただし、AIナニーの研究には国際法上の規制、倫理的な批判など複数の問題点があり、世論は賛否両論だ。
最大の問題点は現在の国際法では、そもそも2週間を過ぎたヒトの胚の実験研究は禁止されているという点だ。そのため、これまでの他国の研究機関でもヒト胚ではなく、ネズミや羊で実験を行ってきた。
また、国際法上、認可されたとしても、人工子宮で生まれた子どもに異常があった場合、誰が責任を追求されるか?を決めなければならない。「AIナニー」の開発者か、病院か、或いは「AIナニー」に委託した本人なのか、あらかじめ契約書を締結する必要があるだろう。
そして、自らの体内で育てたことにより育まれる母性愛もあるが、「AIナニー」が育てた場合、母親としての愛情が生まれるのだろうか」、「AIナニー」が産んだ子供だと判明すれば社会的な差別を受けないか?という倫理的な批判もある。
AIナニーの研究は法的・倫理的にもタブーとされている領域に踏み込むことになるが、研究チームはその必要性を強く訴えている。「AIナニーの研究は、生命の起源とヒトの胚発生のさらなる理解に役立つだけでなく、出生異常やその他の生殖医療問題を解決するための科学的証拠にもなる」「少子高齢化の社会問題解決の糸口にもなる」
「AIナニー」の研究にはさまざまな課題もあるが、ヒト胚を育てられる「AIナニー」技術が開発されれば、それによる恩恵の方が多いように思う。研究チームが主張するような医学の進歩、少子高齢化の解決のみならず、多様な価値観を持つ人々の人生がより豊かになるのではないだろうか。