漫画デジタル配信事業を手がける株式会社ナンバーナインが、WEBTOON制作スタジオ「Studio No.9」を昨年末から本格始動した。同スタジオはアシスタントや着色担当などにも印税を支払い、原稿料や印税率を明示する〝明朗会計〟が特徴。同社代表の小林琢磨氏は「業界の発展にはクリエーターさんにお金を払うことが大切」と力を込めた。
「Studio No.9」は、スマホに最適化された縦読み・フルカラーが特徴的な「WEBTOON」と呼ばれる電子漫画を制作する。単行本発行で印税収入を得る「横読み漫画」とは異なり、電子コミック配信ストアでの購入が印税収入につながる。
各クリエーターには、配信ストアからナンバーナインへの入金額のうち、制作能力や担当工程に応じて印税が払われる。現在は背景制作などのアシスタントに2.5~5%、着色担当に5~7.5%などと設定している。
小林氏は月間販売額が2億円以上と言われる大人気WEBTOON「俺だけレベルアップな件」を例に挙げ「仮に2億円から(ナンバーナインに)35%が入ってくるとして7000万円。(印税は)5%ならば月350万円。夢がありますよね」と説明。現実的にはまず、1カ月あたり1000万円の売り上げを目指すといい、前述の条件で計算した場合、月17万5000円が懐に入ることになる。
印税に加え、1話ごとに約2万5000円~の原稿料(制作料)も支払われる。従来はアシスタントに印税が支払われることはごくまれで、1日あたり約1万円~1万5000円の制作料を収入とすることが一般的だったという。
「漫画業界ってブラックボックスな部分が多いんです」。小林氏によると、これまでの漫画制作では原稿料や印税率が公表されることは少なく「やりがい搾取」が発生することもあったという。そこで、今後の成長が見込まれるWEBTOONの領域に「基準額」を設けることで「健全な未来を作りたい」と、支払いの仕組みをフルオープンにした。また、印税を支払うことで各クリエーターの当事者意識やモチベーションが向上し、作品の質が上がるとも見込んでいる。
同スタジオは原作、ネーム制作、線画、着色、アシスタントの5工程にクリエーターを配し、チーム制で作品を作り上げる。全制作メンバーに印税を支払うと発表後、1月末までに約125名の参加希望者が殺到した。小林氏は反響を喜び「業界にとって一つの新しい選択肢を作ることができたと思う」と手応えを口にした。