「ウルトラマン」「スペクトルマン」「風雲ライオン丸」などのコミカライズで一時代を築き、２０２０年に８４歳で死去した漫画家・一峰大二さんの遺作が、昨年大みそかに東京国際展示場で開催されたコミックマーケット(コミケ)に出品された。一峰さんは17年冬に８２歳でコミケに初参加し、雑誌「少年」連載から５０年ぶりにリメークしたオリジナル作品「新電人アロー」を出品し、大きな話題を集めた。今回はコロナ禍の中で描き進めた「新電人アロー」の新作３巻、４巻が販売された。
エアブラシを駆使したオールカラーの力作。主人公のサイボーグ戦士、電人アローは電気エネルギーで活動し、必殺技の電光スピアで悪と戦う。３巻は２０年に完成し、２０年冬までに４巻の本編が描かれた後、一峰さんはこの世を去った。４巻は表紙を「Theかぼちゃワイン」の三浦みつるさんが代筆して完成。「新電人アロー」をプロデュースした漫画家の佐佐木あつしさん(58)は、今回のサークル参加に際し「漫画を描きながら生涯を終えられ、まさに漫画家の鑑だった先生と親しくさせていただいたことは、私の財産です」と振り返った。
佐佐木さんは２０１０年頃、石ノ森章太郎が立ち上げた漫画家の親睦団体マンガジャパンで一峰さんと初対面。「一峰大二と申します。漫画を描かせてもらっております」と尊敬する先輩の謙虚なあいさつに恐縮した。それ以降はアシスタントを務めるなど、家族ぐるみで親交を深めた。１７年だった。「これからも頑張ります」と記した礼状を作成していた一峰さんは「俺は何を頑張るというのか？」と自問自答を始め、「口で言ってるだけではダメなんだ」と「電人アロー」の新作を描き始めたという。発表先のあてがない状況で描く姿に「ひとりでモチベーションを上げてコツコツと進めておられてビックリしました」と感銘を受けた佐佐木さんは、コミケ出品を勧め、８２歳の初参加に至った。
一峰さんは体調などを考慮してコミケ会場には足を運ばなかったが、オンラインで来場者と交流。「僕のことを知ってくれている人がいるんですね」と喜んでいたという。１８年冬のコミケでは「新電人アロー」第２巻を発表。１９年は見送り、３回目のコミケ参加を見据えるもコロナ禍に見舞われた２０年、１１月末に年賀状を作成中に倒れた。そのまま同２７日に息を引き取った。
倒れる直前に電話で言葉を交わした佐佐木さんは「いつになく『ありがとうね』と話されるので、少し不思議に思いました。その後、廊下で倒れている姿を奥様が見つけたそうです」と寂しそうに語った。「先生は『作品をとにかく面白くしたい』と考えることが好きでした。先生ほどのレベルなら、普通に描いても面白いはずですが、もっと上を見て、これくらいでいいと妥協することがありませんでした」としのんだ。
絶筆のイラストは漫画家有志で完成させ、今回のコミケでお披露目された。「残された者として、先生のことを次の世代に伝えていきたい」と、昨年１２月にオープンし、館長を務めるオンライン画廊「光臨アートギャラリー」でも一峰さんの功績を伝えていく方針だ。また、「新電人アロー」５巻を今年冬のコミケで発表することに意欲を示しており「先生の下描きが残っています。これまでとは異なるでしょうが、形にしたいです」と最後の遺作完成に向け、言葉に力を込めた。
