「キャーッ、助けて!」。夜の住宅街に、甲高い悲鳴が響いた。
帰宅途中だった駒田達彦は、驚いて声のした場所へ走った。そこへたどり着くと、止まっていた黒い車が、急発進で立ち去るのが見えた。人は誰もいない。
ふと、道に物が落ちているのに気がついた。それは赤いハンドバッグとハイヒールだった…。
駒田の通報を受け、警察が駆けつけたのは午後10時30分。状況から拉致事件と思われた。バッグの中を調べ、持ち主は真宮京子・45歳と分かる。飲食店を経営する女性実業家だった。
◇ ◇
翌朝、その真宮京子の絞殺死体が、公園の茂みの中で発見された。片方のハイヒールしか履いてない姿だった。公園は、拉致現場から車で30分ほどの場所にあった。 「昨夜、拉致されたんだって?」
加茂警部の問いに、根木刑事がうなずく。「犯人は、10時30分頃に被害者を車で拉致。その後に殺して、この公園まで運んでますから、遺棄されたのは11時以降ですね。死亡推定時刻は9時半から11時半です」
「関係者のアリバイを調べるか」
◇ ◇
その後の調べで、有力な容疑者が浮かんだ。被害者の姪で相続人の真宮志保。遺産目当てという動機がある。だが、彼女にはアリバイがあった。 ●真宮志保の証言「あの夜は、10時40分に友人の家を訪ね、お泊りの女子会をやったの。お酒で盛りあがって、ほとんど徹夜。証人なら5人以上いるわよ」
根木刑事が悔しそうに言う。「怪しいですが、彼女が11時に死体を公園に運ぶのは不可能ですね」
加茂警部が聞く。「その友人宅と、拉致現場の距離は?」
「車で7~8分ですね」
「アリバイは崩れるな。彼女が犯人だろう」
さて、警部の推理は?今回は、アリバイトリックを見破ってください。