浜中太郎巡査は、管轄の住宅街を歩いていた。最近、この地区で泥棒が多発し、パトロール強化が指示されている。ふいに、女性の悲鳴が聞こえた。
振り返ると、大きな家から女性が飛び出してきて、こう叫んでいた。
「主人が、書斎で殺されている!」
「本当ですか!」
浜中巡査は、女性の家に入り、まっすぐ庭の離れへ向かった…。
◇ ◇ ◇
「通りかかった巡査が、死体を発見したんだって?」
現場についた加茂警部の問いに、根木刑事が答える。
「正確には、被害者の妻・柳瀬牧子が第一発見者です。夫の死体を見つけ、取り乱して外に飛び出した所に、浜中巡査がいたんです。巡査が死体を確認し、通報してます」
「なるほど」
「被害者は、柳瀬京輔。作家だそうで、庭の離れが書斎兼仕事場でした。机にあった文鎮で撲殺されてます。現場には金品を物色した跡があります。物盗りが被害者に見つかって、居直って犯行に及んだようですね」
「そうみせかけた偽装かもしれないぞ」
「実は、近所をうろついていた不審者・野沢満夫という男を確保してます」
「ま、話を聞いてみるか」
◆柳瀬牧子の証言
「書斎を見に行ったら、夫が血塗れで死んでました…。夫は、集中したいからと書斎に窓を作らせず、防音仕様にしてました。ですから母屋から物音は聞こえませんでした」
◆野沢満夫の証言
「今は無職だけど、泥棒に間違われるとは心外だね。被害者は作家だって? 小説は読むけど、柳瀬京輔なんて聞いたことないよ」
加茂警部は、浜中巡査を呼んで、柳瀬京輔はこの辺で有名ではなかったのかと尋ねた。
「私も知りませんでした。家に入ったのも初めてですし」と、浜中巡査。
「犯人がわかったよ」警部が言った。
さて、警部の推理する犯人は?