さらにメジャー映画にありがちな、泣かせようとするドラマチックな展開を作らず、どんな困難にも涙を見せずに立ち向かおうとする共感度の低い女性主人公の設定など、確かに大手映画配給会社では映画化は難しかった脚本。後に企画を聞き、賛同したアニメーション映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の片渕須直監督がプロデューサーとして制作に参加しています。
その結果、あえて登場人物に共感させない一歩引いた視点で取材をする主人公・由宇子のおかげで、観客は冷静な目で絡み合った人間関係を一緒にひもといて行き、やがて直面する言葉にできない感情をダイレクトに感じることができるのです。
果たして猛スピードで次々と情報が入ってくる現代社会で、冷静に物事を判断し、それぞれの立場の人が体験する未来を想像できる人がどれだけいるのでしょうか?だからこそ一歩引いて考える想像力が今最も必要とされている気がします。そして映画とは、想像力を培うものであると考えています。本作のように答えをあえて描かずに、「あなたならどうしますか?」と観客に投げかけることで、想像力を働かせることができます。それにより誰に共感するか、誰が間違っているかではなく「多角的に物事を捉えられる力」で、正しい判断力を身につけたいものです。