近年、お笑い芸人とミュージシャンの同質化を強く感じる。
先日、霜降り明星の粗品をインタビューする機会があった。彼の音楽活動が注目され、自身のレーベルを立ち上げたことに関する取材だったのだが、自身の表現欲求について語る彼のたたずまいは新進気鋭のミュージシャンそのもの。体制に挑もうとするパンキッシュさと自負心、独特のストイックさ、純粋さをあわせ持っており、若い頃の音楽仲間たちと話しているかのようなデジャヴにおそわれたものだ。
粗品に限らず、ミュージシャンとして注目を浴びるお笑い芸人も増えている。有名どころでは小坂大魔王、藤井隆、小籔千豊、くっきー、オリエンタルラジオ、ラニーノーズあたり。元々コミックバンドだとか、芸人として売れたのでついでに歌もというパターンではなく、クリエイティブな感性を真剣に音楽に投影して、質的にもミュージシャンとして認められている人が増えているのだ。
きっかけになったのは1990年代のダウンタウンの台頭だと思う。ダウンタウンの音楽活動自体は典型的な「ついで」パターンなのだが、彼らは本業のお笑いコンビとして、お笑い界にそれまで無かった反抗的でシニカルでアーティスティックなノリをもたらした。その変化は徐々にお笑い界の体質を変え、従来なら音楽界に向かったであろう若者たちを少なからずお笑い界に向かわせたのではないか。
お笑い芸人になる夢を果たせず、結果的にミュージシャンとして成功したというパターンもある。ゴールデンボンバーの鬼龍院翔は吉本興業の養成校NSC出身。現・しずるの池田一真とコンビを組んで活動したが、才能あふれる同期たちに引け目を感じバンド活動に移行した。きゃりーぱみゅぱみゅも高校時代に「お笑い研究部」というサークルを作るほどお笑いに熱中し、校名は明かしていないが芸人養成校のオーディションを受けたことを明かしている。現代の芸能界ではお笑い芸人として成功するか、ミュージシャンとして成功するかは紙一重のことだと思わされる。
「ビーイング」を代表に、J-POP成立期にイメージ戦略のため笑いの要素を切り捨てた音楽界だが、むしろ今注目を集めているのは鬼龍院やきゃりーのようにコメディーセンス、エンタメ力を持ったミュージシャン。またお笑い界ではクリエイティブな感性を持った芸人が一層求められるようになっている。非常に近しい存在になりつつあるお笑い芸人とミュージシャン。この同質化は今後の芸能界にどのような影響を与えてゆくのだろうか。