「死体発見時刻が、午前5時とはずいぶん早いな」
現場のマンションに到着した加茂警部は、あくびを噛み殺しながら言った。今の時刻は午前7時。警部の様子に苦笑しながら、根木刑事が報告を始める。
「隣の住人が、早朝の大きな物音で目を覚まし、被害者の部屋をのぞいて死体を発見しています。被害者の名は、成田丈治。この部屋をデザイン事務所として使っている会社の社長です。ナイフで背中を刺されて死んでいました」
「マンションの部屋を事務所にしていたわけか。従業員の数は?」
「3人です。隣の住人の千葉泰史と、3人の従業員を呼んでまして、口裏を合わせないよう別々の部屋で待機させてます」
「いい対応だ。順に話を聞こう」
◆千葉泰史の証言
「成田さんとは、顔見知りでした。実は、昨夜10時頃に廊下で出会って話をしてます。彼は『仕事がたまって、今日は事務所で徹夜です』と言ってました。朝の物音で起き、隣を見に行ったら、ドアが開いていて…中をのぞいて彼の死体を発見したんです」
◆開出牧子の証言
「社長が殺されるなんて…。昨日はごく普通に仕事されてたのに。私が午後7時に帰る時には、経理関係の書類をご覧になってました。そう言えば、書類を見て首をかしげてましたね」
◆久我義郎の証言
「昨日、ぼくが事務所を出たのは午後6時頃かな。いったい誰に襲われたんでしょう。社長はスポーツジムで体を鍛えていたので、襲われても反撃できただろうに…徹夜明けで疲れていたのかな。とても残念です」
◆津森辰夫の証言
「昨日、退社したのは午後8時過ぎでした。社長はまだ仕事をされてましたね。マイペースな方で、徹夜で仕事をしたり、逆に早朝にきてしたりと、いろいろでした。体を鍛えて、健康が自慢の方だったのに…」
証言を聞いた警部に、新たな情報が入ってきた。経理関係の書類が紛失していて、誰かが横領の証拠隠滅を図ったらしいのだ。
「社員の誰かが、早朝に証拠隠滅に来て、出くわした社長を殺したのでしょうか」
根木刑事の言葉に、加茂警部がうなずく。
「ひとり、うっかり口をすべらせた奴がいるだろ。そいつが犯人だ」
さて、警部が指摘する犯人と、その推理の根拠は?