多様な性のあり方を認め合うという考え方が広まる昨今、同性同士がカップル成立を報告することはなんら特別なことではなくなっている。そしてその風潮はバーチャル恋愛の世界にも及んでいるようだ。
「私たち、お砂糖関係になりました」…このところ、SNS上では美少女たちが幸せそうに寄り添い合う画像と共にパートナーになったことを告げる投稿、いわゆる「お砂糖報告」を見かけることが多くなった。注目すべきは、画像に映る二人が3DモデルやLive2Dで作られた、バーチャル世界の美少女であるという点。
このお砂糖文化の大きな担い手となっているのは「バ美肉おじさん」たち。「バ美肉」とは2020年1月8日に放送されたトーク番組『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)で取り上げられ広く認知されるようになった言葉だが、「バーチャル美少女受肉」、すなわち「バーチャル空間で美少女の肉体(アバター)を受肉する(手に入れる)」の略語で、成年男性が受肉すると「バ美肉おじさん」と呼ばれるようになる。
彼ら(彼女ら)は普段、美少女のアバターを纏い、バーチャル空間の美少女として、バーチャルYouTuberやVRChatなどの活動を行なっている。元々、魂(演者)とアバター(肉体)の性は一致していたが、現在では「キャラクターの外見が可愛ければ、中身がおじさんでも関係ない」というスタンスであえてそのギャップを楽しむ文化となっており、演者は自らが理想とする女性を作り出し、なりきることによって、ジェンダーの壁を超えて本当の自分を表現しているのだ。
VRChatではボイスチャットはもちろんのこと、自分の動きをアバターに反映させたボディランゲージなど、ユーザー同士で現実世界さながらのコミュニケーションができる。バ美肉おじさんたちはその中で恋愛を楽しみ、パートナーと「お砂糖」になったり、反対にパートナーを解消し「お塩」になったりしているというわけ。
はたしてバ美肉おじさんたちはどのような経緯でバ美肉し、「お砂糖関係」を築いてゆくのだろうか?その心の内面に触れるべく筆者は何人もの方に取材を申し込んだのが、
「お相手の方にも迷惑になるのでお断りします」
「リアルに拡散すな」
などの手厳しいリアクションやSNSアカウントのブロックに遭い、残念ながら実現は叶わなかった。バーチャルがリアルよりも大切な場所となっている彼ら(彼女ら)にとって、筆者の取材依頼はそこを土足で踏み躙られるようなものだったのだろう。大変申し訳ないことをしたと反省しきりである。
生まれつき自分に課せられた性の役割にうんざりしている人は多いだろう。自分の容姿を好きになれないことだってあるだろう。バーチャル空間で理想の姿を身に纏い、「本当の自分」になって恋をする…実体がない世界で築き上げられるお砂糖のように甘い関係には、肉体に囚われていてはたどり着くことのできない「真実の愛」が存在するのかもしれない。
VRCHAT内では、今回ご紹介した「バ美肉」以外にも、女性が男性のアバターを纏いBL(ボーイズラブ)を楽しんだり、動物や家電製品などの人外になりきるなど、ユーザーの数だけ多様な自己表現の形が存在している。読者の皆さんも現実社会が息苦しくて辛い時、こうしたサードプレイスが存在することを思い出してみてはいかがだろうか。