音楽配信サービス等で音だけを摂取するスタイルが若い世代を中心に浸透している昨今、アナログレコードという「モノ」にこだわる一定の層もいる。首都圏を中心にコアな音楽ファンに向けた品ぞろえで知られるレコード店「ディスクユニオン」は東京・渋谷で最大規模となるロック専門店「ロックイントーキョー」を3月にオープンした。アナログ盤の魅力や利点についてスタッフを取材した。
同店は1950年代から現在までのロックを中心にレコードやCDの新譜と旧譜合わせて総在庫5万点を誇る。英米などの、いわゆる「洋楽」が大半を占めつつ、出入口階段の壁を往年のアルバムジャケットが飾る中、正面中央にひと際大きく描かれているのが「はっぴいえんど」の名盤「風街ろまん」(71年)であるように、日本の音盤も充実している。
7インチシングルのコーナーをのぞくと、まさにタイトルが「ロック専門店」のコンセプトにマッチする西郷輝彦の「ローリング・ストーンズは来なかった」(73年)を発見した。価格は税込6800円。92年に発売されたオムニバスCD「幻の名盤解放歌集クラウン編」に収録され、今もYouTube等で容易に聴ける曲ではあるが、これがレア盤のお値打ちだ。リリース当時は〝黙殺〟された幻の名盤が中古盤市場で逆転現象を起こすこともある。
洋楽になると、直接仕入れたビンテージ盤の価格が半端ない。ビートルズを例にすると、米国で編集されたアルバム「THE BEATLES AGAIN」(70年)の未発売の初期校正ジャケット盤が税込40万円。思わず、ゼロの数をカウントしてしまった。
また、ビートルズの初期ナンバー4曲とカントリー歌手フランク・アイフィールドの8曲をミックスした米国編集盤「ON STAGE」(64年)が同28万円、白衣を着たメンバーがバラバラになった赤ん坊の人形や肉片と共に写ったジャケット(後に差し替えられる)の米国盤「YESTERDAY AND TODAY」(66年)が同15万8500円…。いずれも「骨董品」的な価値がある。
同店の「営業部 音楽雑貨部門/SP・BP部門」リーダーの島田嘉孝さんは当サイトの取材に「新譜と最近の再発盤も一通り置いていますが、シェア的に言うと、8、9割が中古です。昔の初版とか、当時のものに近ければ近いほど、値段は上がっていきますね。音源を聴くためというより、いかに当時のレコーディングに近い物を手にしたいというマニアの方もいらっしゃるので、同じアルバムを3枚も4枚も買われて聴き比べておられます。壁に飾ってある(高価な)レコードはどちらかというと、当時のファースト・プレスが多いです」と説明した。
17日で開店から1か月。渋谷という土地柄もあり、店内には20-30代の若い世代も多い。
島田さんは「デジタル配信では得られない情報がレコードのジャケットにはあります。バンドや演者などの情報量が多いですし、ライナーノーツにはプロデューサーなどスタッフの事も細かく書かれている。配信だと、ジャケットと曲名しか出てこないことが多いので、情報量が一緒に取れるという事でいうと、レコードはいいフォーマットだと思います」と分析。さらに「モノとしての大きさに魅力があり、若い方もそのあたりを支持されているみたいです。飾られるのはもちろん、見開きのジャケットだと、表では見られない演奏中の写真があったりして見ていて楽しいです」と補足した。
配信だけを聞く人は、アーティスト名をネット検索して詳細な情報をチェックする。島田さんは「最近、若い方はそういう使われ方をする人が多くて、一通り、Spotifyとかで聴いて、気に入ったものだけはレコードで買って、深堀りしていくというカルチャーもできています」と付け加えた。
今後に向け、島田さんは「10代、20代の方も取り入れたいと思い、アパレルを強化してバンドTシャツを置いています。音楽の情報量はネットよりも圧倒的に多いと思います。SNSだと好きな情報に偏りがちですが、店舗にいると、知らなくても、情報として目に入って来るという『偶然の出会い』がある。自分が探しているアーティストのプロデューサーがたまたま同じで、また違うバンドを見つけたりとか。音楽と向き合う中でレコードの温かみとか、アナログならではの魅力はあると思いますね」と手ごたえを示した。
日頃、自分の周囲にはない世界が「不意打ち」のように目に飛び込んで新たな出会いが生まれる。発見の「場」としての可能性が店舗にはある。(※記載の商品は既に販売済みの場合があります)