ネット世代の昭和歌謡「A面B面」の世界を超え、町あかりが選んだ「今春のベスト5」

北村 泰介 北村 泰介

 アナログレコード盤面の裏表を示す「A面B面」が昭和の懐かしワードとして「スッチー」や「アベック」などと共にテレビ番組で紹介されていた。多くの若者にとっては「死語」になっているようだが、その一方、音楽配信サービス等でシングル盤のA面B面など関係なく、アルバム収録曲も含めて当時の音源全てを同列に聴くネット世代の愛好家もいる。その1人として、昭和の歌を探求する平成3年(1991年)生まれのシンガー・ソングライター、町あかりに話を聞いた。(文中敬称略)

 町は自作曲「もぐらたたきのような人」などを収録したアルバムで2015年にメジャーデビュー。自ら電子鍵盤楽器を駆使した唯一無二の世界観が、電気グルーヴ・石野卓球の琴線に触れ、ライブのオープニングアクトやコラボが実現。また、ロックバンド「バービーボーイズ」のギタリスト・いまみちともたかにも絶賛されて配信ライブで共演した。「おこがましいですけど、レジェンドの方たちからのリアクションに励まされています」という。

 そんな町が昭和の曲と出会ったのが07年。高校1年生だった。

 「阿久悠先生が亡くなられた時の追悼番組で『ロマンス』を歌う岩崎宏美さんを知って『素敵!』って。そこから掘っていきました。初めて買ったレコードは宏美さんのシングル『未来』。パソコンのデータ画像で見るジャケットじゃなく、現物として『ほんとにあるんだ!』って感動しました。沢田研二さんもこの年に初めて知りました」

 ザ・タイガースのデビューから40年後、ソロとして「勝手にしやがれ」でレコード大賞に輝いてから30年後に知った「ジュリー」という存在。昨年出版された著書「町あかりの昭和歌謡曲ガイド」(青土社)で、沢田のイチオシ曲として「サムライ」のB面だった「あなたに今夜はワインをふりかけ」(78年)を挙げた。

 同書では、スタイル・カウンシルやEW&Fなどを彷彿させるダンサブルな田原俊彦の「カフェバー物語」(83年、「エル・オー・ヴイ・愛・N・G」のB面)、山口百恵のアルバム「L.A.Blue」収録の「喪服さがし」(79年)、ディスコ歌謡として注目される麻丘めぐみの「夏八景」(76年)など隠れた名曲を紹介。その選曲センスは、リアルタイムのヒット曲から「自由」なネット世代の視点に貫かれている。

 「昭和歌謡」と一口に言っても、昭和は西暦で1920年代から80年代までと幅広い。ここまで紹介した曲は昭和40-50年代中心だが、昨秋には「丘を越えて」「青い山脈」「憧れのハワイ航路」など、同じ昭和でもヒトケタから20年代までの流行歌をカバーしたアルバム「それゆけ!電撃流行歌」を日本コロムビアからリリース。「昭和の日」となる29日午後2時から、YouTube「町あかりチャンネル」で19曲を歌う無観客ライブを無料生配信する。

 「昭和は激動の時代で変化がすごいから、それが音楽に反映されて、すごく面白いと感じます。戦前はおしゃれでジャズとか海外ぽい要素もあったのに、戦中になるとピタッとなくなり、戦後はアメリカナイズされ、(昭和の終わりに)バブルという想像もできない文化が出て来る。昭和時代の曲は大衆に向けてより多くの人に聴いてもらうという事を大前提にしている所が好き。(老若男女に向け)いろんな曲を書く姿勢に憧れます。大衆音楽、私はそれをやりたい。昭和の時代、小さい子が、ぴんから兄弟や(殿さまキングスの)『なみだの操』を聴いたりとか、そういう世界は面白いです」

 町は21年春に聴きたい5曲を当サイトに紹介してくれた。

・「抱いた腰がチャッチャッチャ」(84年、ビートたけし&たけし軍団)
・「可愛い女と呼ばないで」(81年、金井夕子)
・「早春の港」(73年、南沙織)
・「グッドラック」(78年、野口五郎)
・「故郷(ふるさと)」(72年、由紀さおり)

 「南沙織さんと野口五郎さんの曲は筒美京平先生の作曲です。昨年夏から筒美先生の曲を弾き語りでカバーする配信をやっていたんですけど、先生と同じ誕生日の5月28日にちなんだイベントを配信でやろうかと考えています」。さらに、今年もオリジナルアルバムを出す予定。コロナ禍の中、曲作りに励む日々が続く。

 冒頭で触れた「A面B面」だが、阿久悠とイラストレーター・和田誠による対談本(85年)のタイトルでもある。同書を読み返すと、阿久は「B面とは複雑な客層のホテル」と例えていた。混沌としたB面的な世界の中にも「お宝」は隠れている。

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