物価の上昇が続く中、家計防衛のために食費を切り詰める動きが広がっている。その一方で、食生活の変化が健康に影響を及ぼすケースも指摘されている。近年、注目されているのが「物価高便秘」と呼ばれるワードだ。節約志向による偏った食事が腸内環境を乱し、便秘を引き起こす現象を指す。特にシニア世代は加齢により腸の動きが低下しやすく、食事量も減りがちなことから影響を受けやすいため、注意が必要だろう。
腸内環境は想像以上に繊細だ。東京・イシハラクリニックの副院長で、秋田栄養短期大学特任教授の石原新菜氏は「腸内細菌は比較的早いサイクルで入れ替わるため、食事の影響は早く現れます。2~3日で変化が見られ、約2週間で安定した構成になる」と説明する。安価なパンやおにぎり、大量の麺だけが入ったパスタ、加工食品中心の食事が数日続くだけでも、腸内バランスは崩れかねない。
物価高便秘の背景には、複数の要因がある。第一に、野菜不足による食物繊維の欠如。第二に、添加物の摂取増加による腸内フローラの乱れ。第三に、脂質や糖質の過剰摂取による血流悪化だ。
石原氏は「食費を抑えるために炭水化物中心やジャンクフードに偏ると、これら三つの要因が重なり、深刻な便秘を招くリスクがある」と指摘する。
こうした状態が続けば、便秘は慢性化しやすくなる。
便秘の影響は腸にとどまらない。石原氏は「腸の壁には全身の約7割の免疫細胞が集まっています。腸内環境が悪化すると免疫機能の低下にもつながります」と話す。腸内細菌のバランスが崩れることで、体調不良や感染症への抵抗力低下を招く可能性もある。
一般的に、3日以上排便がない、あるいは強い不快感がある場合は便秘とされる。中でも、1週間以上排便がない、便が極端に細い、血便や腹痛を伴うといった症状は要注意。石原氏は「3食しっかり食べて3日出ないということは、9食分が腸内にとどまっている状態。こうした状況を放置するのは危険」と警鐘を鳴らす。異常を感じた場合は、早めに医療機関を受診することが望ましい。
石原氏によると、便秘対策として注目される食材は生姜(しょうが)だという。価格も比較的安く、日常の食事に取り入れやすい。「物価高の中でも無理なく取り入れられる腸活食材として生姜は有効」とした上で、「体を温め、腸の動きを促す働きがある」と説明する。
生姜は加熱することで成分が変化し、「ショウガオール」が増加する。この成分には血管を拡張し、深部体温を高める作用があるという。これにより腸のぜん動運動が活発になり、便通改善につながるとされる。また、抗炎症作用や抗酸化作用により、腸内環境の改善も期待できる。摂取量の目安について石原氏は「1日20グラム程度を継続して摂るのが理想」と話す。
腸内環境を整えるために、生活習慣の見直しも欠かせない。石原氏は「食事だけでなく、水分と運動が腸の動きを支える重要な要素」と強調する。
健康な成人の場合、食事に含まれる量も含めて1日に必要な水分は体重1キロあたり約35ミリリットルが目安という。起床時や食事時、風呂上がりなど、生活の節目でこまめに摂取することが効果的だ。
運動については、ウオーキングやスクワットなどの軽い運動が有効とされる。「週2回以上、1回30分程度の運動が腸の働きを助ける」と石原氏は話す。
物価高が続く中、節約は避けて通れない課題だ。ただし、食費の削減が健康を損なう結果となっては本末転倒となる。石原氏は「安価な食品に偏るのではなく、身近で取り入れやすい食材をうまく活用し、腸内環境を守ることが重要」と指摘する。
日々の食事に少しの工夫を加えることが、便秘の予防だけでなく、全身の健康維持につながる。物価高の時代においては、「節約しながら健康を守る」という視点がこれまで以上に求められている。
◆石原新菜(いしはら・にいな) 日本内科学会会員。日本東洋医学会会員。秋田栄養短期大学特任教授。2006年3月に帝京大学医学部を卒業、同大学病院で2年間の研修医を経て、現在父、石原結實のクリニックで主に漢方医学、自然療法、食事療法により、種々の病気の治療にあたっている。クリニックでの診察の他、わかりやすい医学解説と、親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオ、執筆活動と幅広く活躍中。