テレビ神奈川「猫のひたいほどワイド」にレギュラー出演するなど活躍を広げているタレントで昆虫学者の牧田習(28)。「国民的美少女コンテスト」で知られる大手芸能事務所オスカープロモーションに所属するイケメンの一方で、北大理学部数学科を卒業し、東大大学院農学生命科学研究科の博士課程を修了した正真正銘の「昆虫博士」だ。その不思議な経歴を、本人に尋ねた。
兵庫県宝塚市で育った牧田が虫と出会ったのは3歳のとき。「祖父がミヤマクワガタを虫かごに入れて持ってきてくれたんです。姿が格好良くて、興味が湧いて、のめり込んで」。小学生の間は虫を捕り、育てていたが、中学に入ると標本をつくり、報文や論文を書き、専門誌に投稿するなど、成果を発表するまでになったという。
「中2の夏休みに、石垣島に一人で10日間行った。三線(さんしん)を習っていたのですが、その先生の家に泊まり込んで。毎日、自転車で倒れるまで虫捕りをしていた。本当に倒れて農家のおじさんにトラックで運ばれたり…」
その間、中学受験も行ったが、西大和学園や六甲学院などは不合格。大阪の名門、清風中学に進学したという。そこから北大に進む道は、北海道に行った修学旅行から始まる。
「僕、運動が苦手だったんですけど、シャトルランで何回行けたら虫網を持って行っていいって、先生と約束して、それを達成したんです。で、他の子が牧場とかに行っている間に、僕だけ虫捕りをする時間を作ってくれました」
本州とは違う虫と出会いに、「ここで虫捕りをしたい!」と北大進学を決意。「勉強は好きじゃじゃなかったけど、そこからは、自分の中で北大に入ることだけをしようと」と虫捕りのための受験勉強を開始した。
「僕はゴールから決めていきたいタイプ。何の科目がどれだけ必要かを調べて、センター試験の必要点数や偏差値を確認。『じゃあ、この参考書とこの参考書をやればいいかな』と選んでいきました」
2年半、勉強にいそしみ難関の北大理学部に見事、合格。中学受験では辛酸をなめたが「大学受験のときは、ちゃんとゴールから自分で決めたので、この問題を解くにはどのくらいの学力がいるかが明確でした」と分析した。
大学受験には奇跡もあった。
「センター試験がボロボロで。8割必要と言われていたんですけど、7割しか取れなかった。親や先生からも別の大学を勧められたけど、〝関係ない。北大に行くって決めてるから〟と」無謀な出願。そして本番、「生物を使って受ける枠を利用したんですけど、なんとクワガタの問題が出て…」。
自らを虫の世界に引き込んだクワガタのおかげでピンチを脱し、晴れて正々堂々と、北海道で虫捕りに没頭するチケットを手に入れたのだった。
ここで疑問が。これだけ虫が好きなら、なぜ農学部ではなく理学部数学科だったのだろう。
「北大には総合入試といって、理系は学部を隔てず一括で採用するという形式があって、その後に成績によって学部に進学するんですけど…。虫捕りがしたくて北大に行ったので、勉強するわけないじゃないですか。それで数学とか物理とかの授業を真面目にやらなかたったので1年で留年しちゃって」
2年には進級したものの、自身の成績では農学部は進めず、可能なのは理学部数学科か水産学部のみだった。
「水産学部って函館にあるんですよ。函館は本州に近いので、虫も本州と近い。海外に虫捕りに行くのも、函館だと新千歳空港までの交通費がかかる。それで、札幌にいるためには、数学科しかなかったんです」
数学科といえば、数学の道を志す猛者が進むが、ちょっぴり不純な?動機で進学した。
札幌残留を決めたものの、数学科は難関。そこで牧田は考えた。
「数学が一番大変なんですけど、他の教養科目で代替が効いたので、英語とかよく分からないマイナー言語をいっぱい取りまくって。ドイツ語、イタリア語、フィンランド語、中国語とかで、数学をカバーしました」
およそ理系とは思えない発想と選択で乗り切った。
「大学院から昆虫のところに行けばいいと思っていたので、昆虫の研究室には入り浸って、論文だけは黙々と書いている…みたいなよく分からない状態でした」
昆虫の研究をするために、いよいよ大学院へ。しかも、目指したのは東大だった。
「東大は日本一の大学なんで世界中から優秀な人が集まってきますよね。環境もいいし、優秀な先生も多い。標本も文献もあって、学ぶ環境はこれ以上ない。それに…」と語り、付け足した。「東京にいるといろんなところに一人で行きやすいんですよね。北大も素晴らしいんで、北大が東京にあったら、北大に行ったと思う」
とはいえ、他の大学院の入試に合格するのは至難の業だ。
「数学科の先生に『卒業したら東大の大学院に行く』と言ったら、『行けるわけないでしょ、現実を見なさい』とか言われたんですけど、『いや、行くんで』と。でも、受験科目を見たら、英語と昆虫ができればいいと思ってたんですけど農学部の一通りのテストをしますって、3年の中頃に知ったんですけど、これはヤバイと思って、過去問や参考書を買って、半年ほどはめちゃくちゃやりました」
ついに、東大大学院に合格。博士課程を修了し「昆虫博士」となり、現在はメディアや著書を通じて、虫の素晴らしさを伝えている。
学歴について牧田は語る。「勉強はしておいてよかったと思う。めちゃくちゃに生きているように見えて、大学とか大学院にある程度の環境を手に入れることで、許される部分もあるので、よかったと思います」