社会人になったAさんは通勤用の車が必要になったため、父親から中古車を50万円で譲り受けた。中古車市場では200万円ほどの価値がある車だったため、大変幸運なことだと喜んでいた。しかし後日、知人から「その取引、贈与税がかかるかもしれないよ」と指摘され、Aさんは「お金を払って買ったのになぜ贈与になるの?」と驚きを隠せないでいる。
親子間の売買であっても、税金がかかる場合があるのだろうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。
ー「著しく低い価額」とは、具体的にどの程度の価格を指すのでしょうか
売買という形式をとっていても、その対価が時価に比べて著しく低い場合には、その差額分が実質的な贈与にあたるとして「みなし贈与」の対象となるからです。例えば時価200万円のものを1円で売買するような取引を無条件に認めてしまうと、誰もが贈与税を回避できてしまいます。
こうした租税回避を防ぎ、課税の公平性を保つために、時価と支払った対価との差額は贈与されたものとみなし、贈与税の対象とする規定が存在します。
ー「著しく低い価額」とは、具体的にどの程度の価格を指すのでしょうか
法律上、「時価の〇%以下」といった明確な数値基準が定められているわけではありません。あくまで個別の事案ごとに、社会通念に照らして判断されます。その判断の根幹となるのが、客観的な「時価」です。
自動車であれば、同じ車種・年式・状態で市場でいくらで取引されているかという中古車価格が基準となります。この時価から大きくかけ離れた金額での取引は、「著しく低い価額」での譲渡とみなされるリスクが非常に高いでしょう。
ー具体的にいくらが贈与とみなされ、どれくらいの贈与税がかかる可能性がありますか?
Aさんのケースで考えてみましょう。車の時価200万円と支払った対価50万円の差額である150万円が、みなし贈与額となります。次に、贈与税の計算では、1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額である110万円を差し引くことができます。
したがって、課税対象となるのは「150万円-110万円=40万円」です。この40万円に対し、税率10%を掛けた「4万円」が、Aさんが納めるべき贈与税額となるでしょう。
ー贈与税がかからないように、親から子へ車を譲るための適切な方法はありますか?
最も安全なのは、客観的な時価で売買することです。中古車業者などから査定書を取得し、その価格で売買契約を結べば、税務上の問題は生じません。贈与税の基礎控除110万円の枠を活用する方法も有効です。時価200万円の車を90万円以上で売買すれば贈与税は発生しません。
個人間、特に親族間での財産の売買は、当事者の合意だけで安易に進めるべきではありません。高額な財産を動かす際には、その取引が税務上どのように評価されるかを常に意識し、必要であれば事前に税理士などの専門家に相談しましょう。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。