中学受験では、多少なりとも親が子どもに勉強を教える場面が出てくる。すべての教科をひとりで見るのは負担が大きいため、夫婦でうまく役割分担できると心強い。筆者の家では理系の夫と文系の妻という組み合わせで、それぞれの得意分野を活かして長男(現在高校1年生)と次男(現在小学5年生)をサポートしてきた。この「理系夫×文系妻」という組み合わせが、思いのほかよい形で機能していると感じている。
夫は理系の大学院卒で、数学や理科が大好き。数学関連の本を好んで読み、経済や歴史にも詳しい。IT系の仕事をしており、話し方も論理的だ。それでいて、決して威圧的ではなく、きちんと話を聞き意見を交わして納得できる結論を出そうとしてくれる。そんな夫の唯一の苦手が「国語」だ。特にフィクションにはまったく興味がなく、小説を読んでいるところを見たのは、結婚以来『半沢直樹シリーズ』だけ。
一方の筆者は、筋金入りの文系タイプ。小学校高学年の頃にはすでに算数が苦手で、大学受験ではセンター試験で数学の代わりに簿記を選んだほどだ。理科も不得意で、特に天体や物理など「目に見えない世界」はまったく理解できない。ただし国語は大好きで、社会も歴史から地理まで広く興味がある。
こんなふうに正反対の2人だからこそ、家庭での学習サポートでは自然と役割分担ができた。夫が算数と理科、筆者が国語と社会。それぞれの担当が明確なので、勉強の進め方をめぐって意見がぶつかることはほとんどない。週ごとに「国語の進み具合どう?」「算数は今週難しい単元だから金曜は算数メインで」といった具合に、歩調を合わせながら進めている。
また分担していることで、お互いに「すごいな」と思える場面も多い。筆者は夫が算数の難問を楽しそうに解説しているのを見るたびに感心するし、夫も筆者が長文読解に取り組む様子を見て「自分にはできない」と言ってくれる。
この「すごいな」と思えるのは夫婦間だけでなく、子どもに対しても同じだ。子どもが算数をスラスラ解く姿には、筆者は素直に感心するし、夫も子どもが書いた記述式の解答を読んで「自分より上手だ」とほめている。さらに、ほめるだけでなく、子どもが長文読解に取り組んでいる様子には、「よく頑張っているな」と声をかけることも多い。長男・次男ともに夫そっくりの理系タイプなので、共感できる部分が多いのだろう。子どもにとって得意な教科だけでなく、苦手な教科も含めて、両親それぞれの視点から褒められる経験は、大きな励みになっているように思う。
もちろん課題もある。何よりも、筆者が算数と理科をまったく教えられないことだ。塾なしの家庭にとって、これは大きな痛手である。平日に家にいるのは在宅勤務の筆者なので、質問されても「わからない、ごめん」と言って終わってしまう。そのため、子どもはできるところまで自力で解き、わからなかった問題は、平日の夜や週末にまとめて夫が解説する方法をとってきた。ただ次男の場合は、高校生になった長男が教えてくれることも多く、夫の帰りを待たずに疑問が解決することも多い。
この「理系夫×文系妻」の組み合わせがうまくいっている理由のひとつは、互いに尊敬し合っていることだと思う。相手の苦手を見て「なんでこんなこともできないの?」と思うのではなく、「これができるなんてすごいね」と素直に認められること。相手の得意を受け入れて、感謝の気持ちを持つこと。それだけで、日々の小さなトラブルもぐっと乗り越えやすくなる。
そして、意見が違ったときはきちんと話し合うこと。どちらが正しいかを競うのではなく、「子どもにとってより良い方法はなにか?」を前提に話すことで、自然と建設的な方向に進められる。得意分野が違うからこそ、見えてくる視点も違っていて、それが良い化学反応を生んでいるのかもしれない。
誰にでも得意・不得意はある。自分が苦手なことを、当たり前のように引き受けてくれる存在がそばにいるというのは、本当にありがたいことだ。「もっとこうしてくれたらな」と思うこともあるけれど、まずはそのことに心から感謝したいと思う。
<プロフィール>
野田 茜
2男1女のママライター。2022年、高1長男が完全塾なしで中学受験をし、偏差値(四谷大塚)60半ばの中高一貫校へ進学。現在、小5次男が通信教材を利用し自宅学習で中学受験に挑戦中。自身は中学受験未経験で大学まで公立育ち。中学受験の問題の難易度にまったく歯が立たず、逆に子供に教えられる。「ママ、教えてあげよっか?分かる?」と次男に心配される日々。