「置き配」は非対面で荷物を受け取れるため、多忙な現代人にとって大きな魅力である。一方でオートロック付きのマンションにおける置き配は、「セキュリティ」という共同生活の根幹を揺るしかねない課題を突きつけている。
不在時でも荷物を受け取りたいという思いから、宅配業者にエントランスの暗証番号を教えてしまう人もいるかもしれない。何気ない行為が、予期せぬ法的トラブルに発展する可能性を秘めていることをご存知だろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ーエントランスの暗証番号を他人に教えると、どのような問題がありますか?
暗証番号を他人に教える行為は、マンションの管理規約に違反する可能性が極めて高いでしょう。暗証番号を部外者、たとえそれが宅配業者であったとしても、許可なく教える行為はこの規約に定められた「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」に反すると解釈される可能性があります。
善管注意義務とは、その人の職業や社会的地位などに応じて一般的に要求される注意を払う義務です。マンションの住民であれば、共同生活の秩序を維持し住民の安全や財産を守るために、オートロックのセキュリティを維持する注意義務を負っているといえるでしょう。
規約違反が発覚した場合、管理組合から警告を受けたり違約金を課されたりする可能性は否定できません。
ー漏洩したパスワードが悪用された場合の責任は?
民法上の不法行為が成立する可能性があります。不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や利益を侵害した場合に、その損害を賠償する責任を負うというものです。
暗証番号を第三者に教えれば、それが漏洩し犯罪に利用される危険性があることは、社会通念上、十分に予見可能でしょう。にもかかわらず安易に暗証番号を教えてしまった行為は、「注意義務を怠った」と判断され、過失が認定される可能性があると考えます。
もし窃盗犯がその暗証番号を使ってエントランスを突破し、他の住民の部屋に侵入して金品を盗んだ場合、被害を受けた住民は暗証番号を漏洩させた住民に対して損害賠償を請求できます。
ー暗証番号が漏洩してしまった場合はどのように対応すべきでしょうか
まず最優先すべきは、速やかな暗証番号の変更です。さらなる被害の拡大を防ぐための最も直接的かつ効果的な対策で、管理組合は臨時総会などを開く必要はなく、理事会の判断で迅速に対応すべきだと考えます。
次に、全住民への周知徹底が不可欠です。なぜ暗証番号が変更されたのか、その経緯と暗証番号を第三者に漏洩させることの危険性について、改めて全住民に説明しセキュリティ意識の向上を促してください。
便利なサービスの裏に潜む法的リスクを正しく理解して、一人ひとりが責任ある行動をとることが、快適で安全なマンションライフの実現につながるでしょう。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。