小さな子どもがハンドルを握っている姿は、一見ほほえましく映るかもしれない。ただし、あくまで停車している車で「ハンドルを触らせてみる」程度であることが前提だ。高速道路で子どもにハンドルを握らせて走行するのは、誰の目にも危険な行為だとわかる。
だからこそ、その様子を映した動画がSNSで拡散されると、多くの人が二度見するほど驚き、批判の声が上がるのも無理はない。
Aさん(30代・未就学児の母親)も、そんな動画を見かけた1人だった。高速道路を走る車の運転席で、幼い女の子がハンドルを握っている様子が映っていた。コメント欄には「危険すぎる」「事故になったらどうするのか」といった声が並んでいた。
Aさんも「さすがにそれは危ない」と感じたが、同時にあることを思い出した。先日、車内で自分の子どもから「ハンドル触ってみたい」とせがまれ「今日はだめだよ」のひと言で終わらせていたのだ。
もしあのとき、遊び半分で公道を走りながら子どもにハンドルを触らせていたら、何かの法律に違反していたことになるのだろうか。ベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士に話を聞いた。
ハンドルを握らせるだけで「無免許運転」に問われる可能性も
ー子どもにハンドルを握らせて走行させる行為は、道路交通法上どのような違反になりますか?
道路交通法では、走行中に自動車のハンドルを操作することも「運転」(2条1項17号)にあたると定められています。
そのため、運転免許を持たない子どもがハンドルを操作すれば無免許運転(64条1項)が成立し、握らせた大人は共犯(教唆)として処罰される可能性があります。
無免許運転の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
また、ハンドルやブレーキを確実に操作し、他人に危害を及ぼさない方法で運転しなければならないという安全運転義務違反(70条)に該当する可能性があります。
安全運転義務違反の法定刑は3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金です。
さらに、運転者の視野やハンドル操作を妨げるような状態で運転することを禁じた乗車積載方法違反(55条2項)にも該当する可能性があります。
乗車積載方法違反の法定刑は5万円以下の罰金です。
加えて、6歳未満の子どもに義務付けられている幼児用補助装置(いわゆるチャイルドシート)使用義務違反(71条の3第3項)にも該当する可能性があります。
ーアクセルやブレーキの操作を大人がおこなっていた場合、扱いは変わりますか?
子どもが握っていたのはハンドルだけで、実際の操作はほぼ大人がおこなっていたと言える場合であれば、無免許運転とまでは言えないケースもあるでしょう。
もっとも、先の安全運転義務違反、乗車積載方法違反、幼児用補助装置使用義務違反には依然として該当すると思います。
ー実際にこうした行為で摘発された事例はあるのでしょうか?
過去には、子どもに車を運転させたとして、道路交通法違反の疑いで逮捕された事例があります。ドライブレコーダーやSNSへの投稿がきっかけで発覚するケースも少なくありません。
一瞬の出来事に見えても、道路交通法上は複数の違反が同時に成立し得る行為です。万が一事故が起きれば、上記道路交通法上の各違反に加えて過失運転致死傷などの罪も重なり、より重い責任を問われることになります。
また、民事上の損害賠償責任が生じる可能性もあります。
◆齊田貴士(さいだ・たかし) 弁護士
神戸大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。