ある日、Aさんは友人から資格試験の合格報告を受ける。その資格は友人が1年以上前から取得したいと話し、毎日少しの時間でも勉強を続けていた大きな目標だった。この報告を受けたAさんは「おめでとう!」と祝福するが、心の中では「これでまた友人と一緒に遊べる」という喜びだけでなく、「私が置いていかれた感じがして複雑…」という負の感情が隠れていた。
友人と別れて自宅に帰ったAさんは、自己嫌悪に苛まれる。友人の努力の結果を素直に喜ぶことができなかったことが原因だ。もしも友人が不合格だったとしたら、「しばらく落ち込むから話しかけづらくなるかもな」と考えるだろうと思うと、自己嫌悪はさらに加速していく。
このように、なぜAさんは友人の努力の成果を素直に祝福できなかったり、自分と関係があることでしか喜べなかったりするのだろうか。心理カウンセラーの椙山眞伍氏に話を聞いた。
「人の幸せを喜べない=性格が悪い」ではない?背景にある心理とは
―人の幸せを心から喜べず、「自分は性格が悪いのでは」と悩む人には、どのような心理が働いているのでしょうか?
人の幸せを素直に喜べないからといって、性格が悪いとは限りません。そこには、さまざまな感情が存在しています。
その1つとして考えられるのが、嫉妬です。嫉妬というと、攻撃される、妬まれる、嫌味を言われるなど、ネガティブなイメージを持つ人も多いでしょう。
たとえば、自分は恋人が欲しいと思っているのに、友人に彼氏ができた。同じチームで仕事をしてきた同期が、自分より先にマネージャーへ昇進した。こうした状況なら、素直に相手へ喜びの言葉をかけにくいこともあると思います。
それは、本当は自分も彼氏が欲しい、マネージャーに抜擢されたかったという気持ちがあるからかもしれません。
つまり、嫉妬の裏側には、「羨ましい」という感情が隠れていることがあります。
このケースでも、友人の努力や成果を素直に祝福できなかった背景に、『自分も努力して何かを成し遂げたい』『自分も願いをかなえたい』という思いが隠れている可能性があります。
―友人の成功や幸せを「自分への影響」という視点で捉えてしまう人に、共通する傾向はありますか?
1つの特徴として、他人軸になっていることが考えられます。他人軸とは、自分の人生の主導権を他人に預けているような状態です。自分の行動や感情、考え方のきっかけを、自分ではなく相手の言動に委ねてしまいます。
このケースでいうと、「友人が資格試験に合格したら、以前のように遊べなくなるかもしれない」「友人が落ち込んだら、自分も会いづらくなる」と考えています。
つまり、「私はどうしたいのか」ではなく、「相手がどうするか」が自分の判断基準になっていることです。
他人軸になっている人は、NOと言えなかったり、断るのが苦手だったり、周囲の意見に合わせることが得意だったりします。人の顔色をうかがい、「どうすればいいか」を考える一方で、「自分はどうしたいのか」を後回しにする傾向もあります
―他人の幸せを素直に喜べない自分を責め続けないためには、どのような考え方が大切でしょうか?
感情は自然に湧いてくるもので、「こう感じよう」と意志だけで変えられるものではありません。感情をコントロールしようとするよりも、そのまま受け入れることをおすすめします。
「感情を受け入れましょう」「自分を受け入れましょう」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、ここでいう「受け入れる」とは、良い悪いをジャッジしないことです。心理学では「受容」と呼ばれます。
他人の幸せを喜べなくて自分を責めてしまうのは、喜べない自分を受容できていない状態とも考えられます。
感情を否定するのではなく、「自分は何を感じているのか」を知る。その積み重ねによって、少しずつ自分の本音や望みに気付けるようになると思います。
◆椙山眞伍(すぎやま・しんご) 心理カウンセラー
恋愛・夫婦関係・人間関係・仕事など、大人の悩みを専門とする心理カウンセラー。心理支援歴14年、延べ5,000人以上の相談実績を持ち、個別相談や講座の受講者は1,000人を超える。自分の気持ちを整理し、自分らしい人生を選ぶためのサポートをおこなっている。