専業主婦のAさんは、近所の家へ回覧板を届けに行った。目的の家は留守だったため、郵便ポストに回覧板を入れて帰ろうとすると、庭で飼われている犬が突然Aさんの元に吠えながら走ってくる。驚いて立ち止まっているAさんは、そのまま犬に手を噛みつかれてけがを負うことに。
その後、病院に行った後にその家に連絡を入れる。電話口で飼い主から謝罪はあったものの、「犬を驚かせたのでは」「『猛犬注意』の張り紙をしていた」などと言われ、治療費の負担などの話は一向に進まない。
飼い犬に噛まれてけがを負ったAさんは、このまま泣き寝入りになってしまうのだろうか。また「被害者にも原因がある」と言われた場合でも、治療費を請求することは可能なのか。べリーベスト法律事務所の齊田貴士さんに話を聞いた。
飼い犬に噛まれたら、治療費を飼い主に請求できる
ー飼い犬が人を噛んだ場合、飼い主にはどのような法的責任がありますか。
民法718条では「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」と定められています。そのため、飼い犬が人を噛んでけがをさせた場合、損害を賠償する責任を負うのは原則飼い主です。
一方で、飼い主に頼まれて友人・知人が犬を散歩させていたときに事案が発生した場合、散歩させていた人が管理者として責任を負うこともあります。
さらに、過失傷害罪(刑法209条1項)や傷害罪(刑法204条)などの刑事責任を負う可能性もあります。
なお、「猛犬注意」などの表示をしていても、それだけで飼い主の責任を免れることはありません。実際の管理状況や事故が起きた経緯などを踏まえて判断されます。
ー「被害者にも非がある」と主張されるのは、どのような場合ですか。
被害者にも事故の発生や損害の拡大について過失があれば、過失相殺によって賠償額が減額されます。例えば、犬を故意に挑発する、攻撃するなど、被害者側に明らかな落ち度があるケースです。
「犬に近づいた」「犬を驚かせた」と飼い主が主張するだけで、被害者の過失が認められるわけではありません。
ー治療費や休業補償は請求できますか。
犬に噛まれてけがをした場合、治療費や通院にかかったお金など、事故によって生じた費用は飼い主に請求できます。
けがによって仕事を休んだ場合、その間の収入の減少分も補償の対象となりますし、けがの程度に応じて慰謝料も認められます。
ただし、補償の対象となる損害や金額は、けがの程度や治療期間、事故の状況などによって異なります。
ー話し合いで解決しない場合、どこへ相談すればよいでしょうか。
弁護士や民間・行政のADR(裁判外紛争解決手続)機関に相談しましょう。
ー犬を飼う人が日頃から注意すべきことを教えてください。
飼い主は、犬の性質や行動を踏まえて適切に管理することが大切です。自宅の敷地内でも油断せず、人に危害を加えないよう対策するようにしてください。
また、市区町村への登録や年1回の狂犬病予防注射など、法律や各自治体の条例で定められた義務を守ることも重要です。
◆齊田貴士(さいだ・たかし) 弁護士
中央大学法学部を卒業後、神戸大学法科大学院を修了。東京高等裁判所の裁判所事務官を経て司法試験に合格し、司法修習を経て弁護士となる。現在はベリーベスト法律事務所に所属し、幅広い分野の案件を取り扱う。