シカの角(枝角)に含まれる成分が、人間の骨折治療期間を大幅に短縮する可能性があると研究者らが指摘している。
雄ジカは毎年春、より大きな新しい角を生やす。成長中の骨は柔らかいビロード状の皮膚で覆われ、血管が酸素や栄養を届けている。米ワシントン大学と中国・寧波大学の研究チームは今回、骨の治癒を促進する可能性のある数百種類の化学物質を鹿の角から特定した。
実験では骨折させたマウスに鹿の角由来のポリペプチドを注射したところ、仮骨形成が促進され、治癒が「大幅に加速した」という。仮骨形成とは骨が作り直される前に、骨折部の周囲に新しい軟骨や骨ができる過程を指す。治療を受けたマウスの骨は通常2〜3週間かかるところをわずか1週間で接合し、21日後には完全に治癒していた。未治療では通常約5週間かかるという。
研究チームは鹿の角から300種類以上のポリペプチドを特定しており、複数の化合物がこの治癒効果に関与している可能性があるとしている。この発見は骨折がうまく治らない患者向けの治療法開発につながる可能性がある。ヒトの骨折のうち5〜10%は治癒が遅れると推定されており、患者は長期間のリハビリや痛みに苦しむことになる。
医学誌「Journal of Orthopaedic Translation」の論文で研究チームは、「さまざまな治療法があるにもかかわらず、骨折の約5〜10%はいまだ治癒の遅延に至っている」「骨折患者は長期のリハビリ、身体的・精神的苦痛にさらされ、医療制度に大きな負担を強いている」とし、「治癒を促進する新たな治療戦略の開発が急務だ」と述べた。
さらに、「鹿の角は哺乳類の器官で唯一、完全な再生が可能な組織であり、数カ月のうちに骨、軟骨、血管、神経、皮膚を新たに作り出せる」としている。