待望の第1子がもうすぐ誕生する予定のAさんは、「妻を支えたい」と会社に育休を申請した。しかし上司から返ってきたのは「男のくせに休むのか?君の代わりはいないんだぞ」という冷ややかな言葉だった。
周囲の目も気になり、「育休を諦めるべきか、それとも居場所を失う覚悟で突き通すべきか」とAさんは追い詰められていく。上司を敵に回さず、円満に育休に入るにはどうすればいいのだろうか。社会保険労務士 南里有紀事務所の南里有紀さんに話を聞いた。
ー古い価値観の上司に、育休を前向きに納得してもらうための「スマートな伝え方」はありますか?
人員配置は会社が検討すべき事項です。あなたが責任感から育休を諦める必要はありません。とはいえ、「権利だから休みます」と主張するのではなく、まずは「チームへの配慮」をセットで見せることが大切です。上司が「代わりがいない」と言うのは、実は「仕事が回らなくなる不安」の裏返しでもあります。
早めに相談を始め、「引き継ぎ資料をいつまでに作成するか」「不在時の連絡体制はどうするか」を具体的に提示しましょう。「自分がいない間もスムーズに業務が回るよう最善を尽くします」という誠実な姿勢を見せることで、上司の不安を解消し、味方に変えることができます。
ー育休を取ることで、将来の昇進や査定に悪影響が出ることを恐れる人も多いです。実際はどうなのでしょうか?
「育休を取ったこと自体」を理由に評価を下げることは法律で禁止されています。
ただし、会社の評価制度に基づき、勤務実績や成果を評価対象としている場合には、その結果として昇給や賞与額に差が生じることがあります。これは働いている人との公平性を保つためです。
休業期間中の評価などに不安がある場合は、事前に会社へ確認しておくと安心です。就業規則や評価制度を確認したり、法改正により義務付けられている個別周知・意向確認の機会を活用して、人事担当者や上司へ確認したりしておくとよいでしょう。
ー上司の「男のくせに」という発言は、法律上ハラスメントに該当しますか?
職場における育児休業等に関するハラスメント(いわゆるパタニティハラスメント)に該当する可能性が高いです。育児休業等の申出・取得をした労働者の就業環境が害されるような言動は、ハラスメントに該当する可能性があります。
現在、男性の育休取得率は急速に伸びており、最新の厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」では40.5%となっています。国も取得を推奨しており、上司が個人の価値観でそれを否定することは、労働者の正当な権利を阻害するハラスメント行為にあたる可能性があります。
ー育休申請を理由に「解雇」や「降格」などの不利益な扱いをすることは、法律でどのように禁じられているのですか?
育児・介護休業法では、育休の申し出や取得を理由とした解雇、雇い止め、降格、減給などの不利益な取り扱いを厳格に禁止しています。万が一、不当な扱いを行えば企業名の公表対象となるほか、裁判で損害賠償を命じられる可能性もあります。
また、現在は従業員100人超の企業には「男性の育休取得率」の公表が義務付けられており、企業側にとっても「育休を取らせない」ことは採用や社会的信用の面で大きなリスクとなっています。
◆南里有紀(なんり・ゆき) 社会保険労務士/社会保険労務士 南里有紀事務所
大阪府吹田市を拠点に活動。労務相談・給与計算・制度設計など、中小企業の人事労務を幅広く支援している。令和8年度、厚生労働省委託事業「仕事と家庭の両立支援プランナー」委嘱。経営と現場をつなぐ伴走型の労務サポートを強みとし、「人が辞めない組織づくり」をテーマに活動。自身も二度の妊娠・出産を経験した2児の母。