職場のトイレ離席は、極めてデリケートな問題だ。生理現象である以上、他人からは口を出しにくい。しかし、その時間が極端に長かったり、頻度が多かったりして業務に支障が出ている場合、管理職はどう対応すべきなのだろうか。
中堅メーカーで課長を務める男性は、部下の言動に頭を抱えている。彼は出社して1時間ほど経つとトイレに行き、そのまま30分以上戻ってこない。午後も同様の離席が数回ある。
意を決して課長が声をかけると、彼は「実はお腹の調子が悪いんです」と主張。体調不良と言われては、それ以上は踏み込めない。「これがサボりだとしても証拠がないし、注意したらハラスメントになるのでは?」と悩んでしまう。
このような「不自然に長いトイレ時間」にどう向き合うべきか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ー周囲の不満を解消しつつ、ハラスメントにならないように接するポイントはありますか?
まずは「性善説」に立って接することが重要です。
部下がトイレに逃げ込んでいる理由が、単なる怠慢ではなく、実は「職場のハラスメント(パワハラ・セクハラ)から逃れるため」であったり、メンタルヘルス不調によるものだったりする可能性もあります。
そのため、一方的に叱るのではなく、「何か困っていることはないか」「産業医やカウンセラーとの面談が必要か」と、配慮を全面に出して対話を始めるのが賢明です。
それでも改善されず、正当な理由もない場合にはじめて「職務怠慢」としての指導に移る。このステップを踏むことが、周囲の納得感を得つつ、自身をハラスメントのリスクから守ることにつながります。
ーもし病気ではなくサボりだった場合、処分や給料カットはできるのでしょうか。
「スマホをいじっているのではないか」などとサボりを疑うのは、事態を悪化させるので避けるべきです。
アプローチとしては、まず「事情があるなら産業医や専門医の受診をしてほしい」と促し、診断書を出してもらうよう伝えます。もし診断書が出ず、それでも改善されない場合や、病気であっても1日に数時間も働けていない実態があるならば、話は別です。
「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、時短勤務への変更や、実態に即した給与体系への調整を提案することは法的に可能です。あまりに重い場合は、契約不履行として「休職命令」を検討するケースもあり得ます。
ー「労働時間」と「生理現象」の法的境界線はどこにあるのでしょうか?
まず大前提として、会社には「安全配慮義務」があることを忘れてはいけません。
トイレの時間が極端に長い場合、会社側はまず「何らかの疾患が隠れているのではないか」という視点を持つ必要があります。単にサボりと決めつけるのではなく、部下の健康を守る立場からヒアリングを行う必要があるのです。
法的な境界線は曖昧ですが、会社側が「どうしたの?」と常識的なアプローチで事情を聴くこと自体は、ハラスメントには当たりません。むしろ、健康上の問題を放置することこそがリスクになります。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。