地方出張での接待で久しぶりのお客さんと会った際には、つい酒が進んでしまう。会計の5万円を気前よく支払ったものの、翌朝財布を開けたら領収書を貰い忘れていたという失敗は、よく聞く話だ。そして、経理部に泣きつくも「規定ですので」と支払いを拒否されてしまい、途方に暮れる人も少なくない。
住宅ローンや教育費が重くのしかかる40代・50代にとって、5万円の自腹はあまりに痛い。果たして、このまま泣き寝入りするしかないのだろうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。
─なぜ経費精算に「領収書」が原則として必要なのでしょうか?
会社が支出を経費(損金)として計上し、法人税を適正に申告するためには、「いつ」「どこで」「誰に」「どのような目的で」支払いが行われたかという客観的な証拠が不可欠です。
銀行口座からお金が減っているだけでは、それが事業のための支出なのか、個人的な浪費なのか、あるいは架空の取引なのかを第三者である税務署に対して証明できません。
領収書は、その支払いが事実に基づいた取引であることを証明する「最も信頼性の高い一次資料」であるため、原則として提出が義務付けられているのです。
─領収書がない場合に、代替手段として認められる可能性のあるものは何ですか?
まずは、お店に連絡をして「領収書の再発行」を依頼するのが最善かつ確実な方法です。多くの飲食店ではレジの記録が残っているため、日付と金額、状況を伝えれば対応してもらえるケースが多々あります。
もし再発行が難しい場合でも、税務上の絶対的なルールとして「領収書がなければ一切認めない」と決まっているわけではありません。
実務的な代替案としては、「クレジットカードの利用明細」や「レシート」に加え、具体的な会食の相手・人数・目的を詳細に記した「出金伝票」や「理由書」をセットにして提出する方法があります。
さらに、接待の事実を補強するために「招待メール」や「当日のスケジュール表」などを添付することで、経費としての正当性を主張できる可能性が高まります。
─税務調査の観点から、会社が領収書のない経費を認めることのリスクとは?
税務署は「証拠書類のない支出」に対して非常に厳しい目を向けます。もし会社が安易に領収書のない経費精算を認め、税務調査でその正当性を証明できなかった場合、その支出は「使途不明金」として扱われ、経費としての算入を否認されます。
さらに悪質な場合や、個人的な流用が疑われる場合には、その支出が当該社員への「役員賞与(または給与)」とみなされるリスクがあります。こうなると、会社は損金として認められない上に源泉所得税の徴収漏れを指摘され、個人にも所得税が課されるという、会社と社員双方にとって重いペナルティを受けることになります。
会社が規定で厳しく原本を求めるのは、決して意地悪ではなく、こうした税務リスクから会社と社員を守るためなのです。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。