夕食後、良かれと思って食器を洗った夫に対し、妻が投げかける言葉は「ありがとう」ではない。「洗剤の泡が残ってる」「水の使いすぎ」といった冷ややかな指摘だ。
こうした日常の些細なやり取りが積み重なり、夫の精神をじわじわと蝕んでいくケースが後を絶たない。仕事で疲弊して帰宅しても、家には癒やしどころか、自分を査定する厳しい「上司」が待っているようなものだ。
次第に夫は口を閉ざし、常に不機嫌な態度で武装するようになる。妻からすれば「扱いにくい夫」でしかないが、夫の内側では「これ以上、自分を否定されたくない」という悲痛な叫びが渦巻いているのだ。
なぜ、長年連れ添った妻の一言が、これほどまでに夫の心をえぐるのか。そして、冷え切った関係を溶かす術はあるのか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞いた。
ー妻からの批判や無関心な態度に、敏感に傷ついてしまうのはなぜでしょうか。
性別や年齢に関係なく、生まれつき「非常に繊細で傷つきやすい気質」を持った方がいらっしゃいます。
本来なら聞き流せるような些細な指摘も、このタイプの方にとっては、まるで人格そのものを否定されたかのように重く、鋭く突き刺さってしまうのです。これは性格の問題というよりは、持って生まれた「気質」であり、根性論で変えられるものではありません。
ご本人も「もっと打たれ強くなりたい」と願っていることが多いのですが、どうしてもダメージを深く受け止めてしまうのです。
ー傷ついた夫が「不機嫌」という形でしか感情を表現できないのはなぜですか。
それは妻への攻撃というよりも、「自己防衛」の意味合いが強いのです。「不機嫌な態度で黙り込んでいれば、これ以上ひどい言葉を投げつけられないだろう」と、無意識に心のバリアを張っている状態だと言えます。
妻からすれば、夫の沈黙や不機嫌は「無言の暴力」に映り、余計に腹立たしく感じるでしょう。しかし夫側からすれば、言葉で言い返して更に傷つくのを避けるための、精一杯の防御策なのです。
ー妻が、夫のプライドを傷つけずに、改善してほしい点を上手に伝えるためのコミュニケーション術はありますか。
結果(汚れが落ちているか等)ではなく、プロセス(やってくれようとした気持ち)にまず目を向けてあげてください。
たとえ泡が残っていたとしても、夫は妻のために「良かれと思って」行動しています。まずは「洗ってくれてありがとう、助かるわ」と、その行動自体への感謝を伝えましょう。
その上で、「次はここをこうしてくれると、もっと嬉しいな」と理由を添えて建設的にリクエストしてみてください。最初に感謝というクッションがあるだけで、夫は批判ではなく「頼りにされている」と感じ、素直に耳を傾けやすくなります。
ー夫側が、妻の言葉に過剰に傷つかず、自己肯定感を保つための心構えはありますか。
まず、「自分は傷つきやすい気質なんだ」と認め、あきらめることです。「なんて自分は弱いんだ」と責めてはいけません。気質は変えられないので、真正面から受け止めすぎない工夫が必要です。
例えば、妻からきついことを言われても、「これは妻の解釈であって、僕の人間性とは関係ない」「今日は虫の居所が悪かったんだな」と、事実と感情を切り離して考えるようにしましょう。妻の言葉をすべて真に受けず、自分の中で「受け流す選択」をすることが、自分の心を守ることにつながります。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。