近年東京圏では、物価高に加えて不動産価格の高騰も続き、人々の生活コストを大きく押し上げている。経済的な負担増加の影響から、神奈川・埼玉・千葉などの周辺県への転出を選択する人も多い。こうした生活コスト高騰の影響は、高齢期を支える老人ホーム選びにも波及している。「LIFULL 介護」はこのほど、同社への問い合わせなどのデータを元にエリア別の有料老人ホーム費用相場と、都内在住者の老人ホーム問い合わせエリアを調査、結果を公表した。
1都3県の有料老人ホーム費用相場を調べたところ、東京都は入居時費用相場が1008万円、月額費用相場が29.9万円だった。入居時費用相場は神奈川県の約1.4倍(差額288万円)、千葉県の約2.1倍(差額538万円)、埼玉県とでは約3.2倍(差額688万円)もの差があった。有料老人ホームの費用は、地価をはじめとする不動産相場に強く影響を受けるため、大都市圏である都内は、他の地域より比較的高額になる傾向があることが分かる。
都内在住の老人ホーム入居希望者による施設問い合わせエリアでは、都内施設の割合は55.3%にとどまり、都以外のエリアの合計が44.7%と4割強を占めた。一般的には現在の生活圏から離れすぎない立地の施設を選ぶ人が多いが、リーズナブルな老人ホームの探し方として「都市圏から遠ざかる」という方法があり、予算に合わず都外の老人ホームを探す人も少なくないことが推察される。
都以外のエリアについて問い合わせが多い順にランキング化すると、1位は「神奈川県(10.8%)」、2位は「千葉県(9.6%)」、3位は「埼玉県(6.7%)」とトップ3は東京都に隣接する県となった。4位の「静岡県(3.5%)」は、温暖な気候と都内からの交通利便性を兼ね備えており、施設も多くあることから問い合わせが多くなっているようだ。また、5位の「栃木県(2.0%)」には、那須などのリゾート地があり、快適な住環境や生活の質を重視する人の人気を集めている。
LIFULL 介護・小菅秀樹編集長「昨今の物価上昇は、高齢期の住まい選びにも影響しています。職員の人件費や食材費、光熱費の高騰に加え、特に都市部では地代の上昇も重なり、月額1万~3万円ほど上がった老人ホームもあります。郊外へ移れば家賃が抑えられることから、『都内では予算が合わないため、少し広いエリアで検討したい』というニーズが、今回の調査結果から読み取れます。ただし、移住先として選ばれるのは遠方ではなく、神奈川・千葉・埼玉といった、医療・介護サービスが比較的整備されている東京近県が中心です。確かに費用も重要な選定基準ですが、家族がアクセスしやすいかどうかも大切です。距離が多少遠くても『電車の乗り換えが少ない場所がいい』という声は少なくありません。入居後の定期的な面会、私物や消耗品の補充、運営懇談会への参加など、家族が果たす役割を考えると、無理なく通える立地かどうかは現実的な視点といえます。また、パンフレットの金額が安く見えても、オプション対応などによって追加費用が発生することがあります。事前に詳細な費用を確認することで、入居後の見落としや思わぬ負担を防ぐことにつながります」