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10月24日は日本サッカーの歴史的な日 メキシコ五輪でアジア初のメダル獲得 釜本邦茂さんが語った舞台裏

北村 泰介 北村 泰介
2011年11月、記者のインタビューに応じる当時67歳の釜本邦茂さん=大阪市内
2011年11月、記者のインタビューに応じる当時67歳の釜本邦茂さん=大阪市内

 10月24日は日本サッカー史にとって歴史的な日だ。1968年の同日、メキシコ五輪サッカー3位決定戦で日本代表が開催国メキシコ代表を破って銅メダルを獲得。アジア勢初のメダル獲得という快挙となった。その立役者は不世出ストライカー・釜本邦茂さん(当時24)。今年8月に81歳で死去した釜本さんが生前、本紙の取材に明かした快挙への足跡と〝舞台裏〟を振り返った。

 釜本さんはまず、メダル獲得への起点となった1次リーグ初戦のナイジェリア戦で達成したハットトリックを回顧した。

 「僕の2ゴールで2―1として迎えた試合終盤、相手のゴールキックがハーフラインあたりにいた僕の前に来た。そのボールをワントラップしてドリブルしながら一瞬、相手ゴール裏の時計を見ると、針は43分を差しとった。『あと2分で終わりや。このボールをパスして相手に取られたら、1分もあれば点を取られる。それよりもゴールに向かって蹴ったろう。外れてもいい』。そんな〝脚本〟を瞬時に描いて、右足で思いっ切り蹴ったらゴール左隅に入ったんです。我ながら、すごいシュートやったよ。50メートルはあったかな」

 第2戦はブラジルと1―1でドロー。スペインとの最終戦に勝てば1位通過だったが、岡野俊一郎コーチと長沼健監督から「2位通過狙いだ。1位になって(決勝トーナメントで)メキシコとやるより、2位でフランスとやった方がいい」と〝勝ったらアカン指令〟を出されたという。釜本さんは「欧州より中南米のチームが苦手だったし、開催国で応援もすごい。試合会場も1位になると遠くて移動が大変だった」と理由を挙げた。スペイン戦はスコアレスドローで2位通過となった。

 「僕がフリーでGKと1対1になった時、本能的に気持ちはゴールに行くんやけど、『あっ、点入れたらアカンのや』と思い直して、バ~ンと外に蹴り出した。スペインの選手は『なんで入れないんだ!』『お前らはよ点取れよ!!』という顔をしてましたよ(笑)。次の試合を考えて引き分けろとか、勝ったらダメとかいうのはあるんです。その作戦は的中しました」。

 トーナメント初戦のフランス戦は釜本さんが先制点と2点目を挙げて3―1で快勝して初の4強進出。だが、ハンガリーとの準決勝は0―5で完敗した。「(プロが参加できなかった)当時の(共産圏の)東欧勢は強かった。負けてもサバサバした気持ちでした。ハンガリー戦でふくらはぎを蹴飛ばされ、中1日のメキシコ戦は『できるかな』という不安もあったんですけど強行出場しました」

 運命の3位決定戦。超満員のアステカ・スタジアムが「メヒコ、メヒコ!!」の大合唱で包まれる中、釜本さんはいずれも杉山隆一さんのアシストを受けて前半18分と同39分に連続ゴールを決めた。

 「ハーフタイム、ふくらはぎがもうカチンカチンでしたよ。そこへ〝クラさん〟がやって来られた。僕の恩師であるデットマール・クラマーさんです。五輪ではスタンドで試合を見ておられましたが、ベンチに来られたのはメキシコ戦が初めてでした」

 恩師の言葉が響いた。

 「クラさんは『前半2―0の展開が一番危ない』と言われるんですよ。2―0で勝っている時は次の1点を追加すれば勝ちだけど、逆になると、相手は『あと1点で追いつく』、こちらは『あと1点で追いつかれる』という心理的な状況がごろっと変わる。クラさんはベンチで僕に『あと1点取れ』とおっしゃった。それ、覚えてます。でも、ふくらはぎはカチンカチン。『後は誰か入れてくれ』という心境でした」

 後半10分にPKを取られたが、GK横山謙三さんがセーブ。「あれで勝ったと思いましたね。後半35分から観衆は『メヒコ、メヒコ』と言わんようになった。メキシコの選手が決定的なシュートを外してから『ハポン(日本)、ハポン!』に変わった。そうして試合終了の笛が鳴りました。2―0で勝利。僕は歓喜の輪に加わった。『ハポン、ハポン』というアウェーの声援が心地よかった」

 日本代表の全9得点中、7得点を挙げた釜本さんは同大会の得点王となり、海外のクラブからプロ契約のオファーが相次いだ。自身は恩師の母国・西ドイツでのプレーを望んだが、翌年に体調を崩して入院。「これでダメやと、プロをあきらめたのが25歳でした。もし僕がドイツに行ってたら、日本人のプロ第1号だった。自分のサッカーは変わっていたかもしれない。だけど、プロになってなかったから、今の僕があるのかもしれません」

 日本人サッカー選手の海外でのプレーが当たり前になって久しい。釜本さんはその土台を築いたバイオニアとして偉大な足跡を残した。

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