歌舞伎俳優の片岡愛之助が29日、映画「国宝」の撮影地にもなった兵庫県豊岡市出石にある家老屋敷で30日に初日迎える「第15回永楽館歌舞伎」の餅まきを行った。あいさつでは共に永楽館歌舞伎を立ち上げ、7日に大腸がんのため83歳で亡くなった“父のような存在"だったという脚本家で演出家の水口一夫氏を偲んだ。
水口氏は京都のお茶屋に生まれ、芸事に精通。1997年に松竹に入社。松竹上方歌舞伎塾で若手俳優の育成にも尽力。歌舞伎の脚本・演出を手がけた。歌舞伎だけでなく、他の芸事や芝居にも精通し、茶目っ気たっぷりな人柄で慕われた。デイリースポーツにも歌舞伎のコラムを執筆していたこともある。
また「永楽館歌舞伎」でも地元を舞台にした数々の新作を上演してきた。今回も豊岡のコウノトリをモチーフにした『神の鳥』を上演する。雄鳥(父)と雌鳥(母)が、捕らわれた我が子鳥を救おうとする舞踊で、2014年に永楽館で初演され、2021年には歌舞伎座でも上演された。
生憎の雨模様にもかかわらず、多くのファンが駆けつけた中、愛之助は「このように皆様に支えられ15回を迎えた。今回はあっという間にチケットも売れました」か感謝。「『神の鳥』は地元の皆様の声で、水口一夫さんが書いて下さいました。水口先生には忠臣蔵のお話やら地元のことを大変多く書いていただきました。実はこの9月7日に亡くなってしまいまして…」と唇をかみしめた。「『神の鳥』はいずれ大きなところでやりたいね。まずは松竹座かなと話しておりましたら、いきなり歌舞伎座。一番小さな劇場から、一番大きな劇場に。今回、コウノトリのように舞い戻っての凱旋公演ということで、水口先生も(退院して)観て下さるかなと思っていたのですが、間に合わなかった」と無念を口にした。「ですからこの雨も心の雨なのかな、と。きっとどこかで見守って下さっていると思います」と空を見上げた。
また初演から雌鳥を演じている中村壱太郎も「『神の鳥』は4回目。今回もたくさん羽ばたいて、水口先生に届くようにしたい」とあいさつした。
水口氏は愛之助の代表作である「GOEMON」や「鯉つかみ」の作演出も担当。「愛ちゃん、愛ちゃん」と呼んで、芝居以外でもトークショーの仕事などを一緒にすることも多かった。松竹が18日に水口氏が7日に京都市内の病院で死去したこと発表すると、ブログで「芝居の大先輩のお話を聞かせて貰ったり、祖父13世の事や、芝居、上方歌舞伎、上方舞、等々、色々教わりました」とつづり、「永楽館の新作などは全て水口先生が手掛けてくれました。その永楽館の初日も今月末なので見て欲しかったし、見たかったと思います」と言及。「公私ともに、いろんな相談に乗ってくださり、私にとっては父のような存在でした」と存在の大きさを明かした。そして「感謝してもしきれないです そしてお疲れ様でした 向こうでも、みんなといろんなお芝居作って、そして、踊りも踊ってくださいね」と悼んだ。
「第15回永楽館歌舞伎」は10月5日まで。