akiya_b

選挙ポスターに“ヒゲの落書き”「冗談のつもりが…」器物損壊より重い“選挙妨害”の罪【弁護士が解説】

夢書房 夢書房

お酒を飲んだ男性が、帰り道で日頃の政治への不満がふと頭をよぎる。そんな時に目に留まったのは、気に入らない政策を掲げる候補者の選挙ポスターだった。彼は腹いせと冗談半分の気持ちで、カバンに入っていた油性ペンを取り出し、候補者の顔にヒゲやメガネを書き加えた。

本人は「ちょっとしたいたずら」のつもりでやったことも、その代償は想像以上に大きく、「器物損壊」より重い罪に問われるかもしれない。もしも実際にこのようにポスターへ落書きしてしまった場合、どのような罪に問われる可能性があるだろう。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。

ー選挙ポスターへの落書きはどのような罪に問われますか

選挙ポスターへの落書きや、ポスターを破る・剥がすといった行為は、主に「公職選挙法」で罰せられます。具体的には、同法第225条に定められた「選挙の自由妨害罪」が適用される可能性が高いでしょう。

この法律は、選挙運動用のポスターなどを破壊する行為(文書図画の毀棄)によって、選挙の自由を妨害することを禁じています。候補者の政策や理念を有権者に伝えるポスターへの「いたずら」は、個人の財産を傷つける以上に、民主主義の根幹である公正な選挙を阻害する行為と見なされます。

その罰則は「4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」と定められており、器物損壊罪の「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」よりもはるかに重くなっています。

ー「落書き」「破る」「持ち去る」罪の重さに違いはありますか

「落書きをする」「破る」「剥がして持ち去る」といった行為は、いずれもポスターが持つ本来の効用を失わせる「毀棄」行為と見なされ、選挙の自由妨害罪に問われる点では同じです。

ただし、行為の悪質性や計画性、結果の重大性などが考慮され、量刑は個別に判断されます。なお、どの行為であっても軽い罪で済まされる保証はありません。

ー「酔っていた」「政治的主張」といった言い訳は通用しますか

刑法では、心神耗弱(精神の障害により、物事の善悪を判断する能力や、それに基づいて行動する能力が著しく低い状態)と判断されれば、刑が減軽される可能性はあるとしています。ただ、単に「酔っていたから覚えていない」という程度の主張では、罪が免除されることはないでしょう。

また、「特定の候補者を落選させたかった」といった政治的な主張や動機も、違法な行為を正当化する理由にはなりません。

ー未成年者が行った場合、保護者の責任はどうなりますか

未成年が選挙ポスターに落書きをした場合、親の指示に従って未成年が親の手足として落書きを行なった、などの事情がない限り、保護者が刑事罰、つまり「罪」に問われることは基本的にありません。ただし、民事上の責任として、損害賠償を請求される可能性があります。

責任能力がないと判断される年齢(おおむね12歳未満)の場合は、監督義務者である保護者が、未成年者に代わって損害賠償責任を負います。

一方で、責任能力があると判断される年齢(おおむね12歳以上)であれば、原則として本人が損害賠償責任を負います。ただし、日頃から非行を繰り返しているのを知りながら、それを放置していたような「特別な事情」がある場合には、保護者の監督不行き届き(監督義務違反)が認められ、保護者も損害賠償責任を負う場合もあります。

●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 

大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。

よろず〜の求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース