20世紀の終わり、「1999年7の月に人類が滅亡する」と解釈された「ノストラダムスの大予言」が社会現象になった。結局、何事もなく21世紀を迎えたわけだが、それから四半世紀を経た今も「世紀末」という概念への関心は根強く続いている。7月から9月下旬までのロングランで「世界の終わり」をテーマにした「ホラー体験型展覧会」が都内で開催されている。ジャーナリストの深月ユリア氏が同展を体感した上で、こうした世界観にひかれる人たちの心理について識者の見解を聞いた。
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東京・六本木ミュージアムで9月27日まで開催されている「1999展-存在しないあの日の記憶-」では「ノストラダムスの終末予言が実現したら」という世界が恐ろしくも美しく描写されている。同展のキャッチコピー「世界の終わり、見たいでしょ?」を踏まえ、その〝世界の終わり〟と称するものを会場で〝見て〟みようと、筆者は「1999展」に足を運んだ。
通路を進むと、壁いっぱいに貼られた雑誌の見出しやテレビ番組の映像があり、「恐怖の大王が降ってくる」「人類滅亡まであと○日」といったフレーズは当時の緊迫した状況を疑似体験できる。電車の窓のようなモニュメントから見える真っ赤な空と長閑な街並みが交錯する風景を目にし、まるで日常から多次元に迷い込んだような感覚になる。
その先を進むと、巨大な時計のモニュメントがあり、その針は「カチ、カチ」と「終わりの時」を告げる瞬間へと近づいていく。さらに奥へ進むと、終末後の世界なのか様々な異世界が移り変わるシアター空間がある。
なぜ、人は「終末」に想像力を膨らませるのか。
「サイコドクター」など複数の漫画のモデルになった臨床心理士・公認心理士の黒岩貴氏は「脳は『普通のこと』より『すごく良かったこと』『すごく悪かったこと』を記憶し、特に、生命維持・危険回避のために、『すごく悪かったこと・怖かったこと』は記憶に残りやすいです。人間は会話・文字による伝達を通して、実際に経験していなくても、『すごく怖い話を聞いた』は記憶に残りやすい」と解説した。
その上で、黒岩氏は「だから、終末論に興味を持つことは心理学的にも脳科学的にも自然なことであり、むしろ健康な証拠ではないでしょうか」と私見を語った。
心理学者の富田隆氏は「現代社会を生きている人々の多くは『漠然とした不安』や『無力感』を抱え込んでいます。『終末予言』はそれらの感情に『説明』を与えてくれて、人は心理的な『カタルシス(浄化)』を得ることができます。全ての物事を『リセット』してくれる『終末の到来』は、日常の苦しみから解放してくれるという意味で一種の『救済』でもあり、誰かと『終末予言』を共有できれば、そうした仲間との一体感が『孤独』を癒してくれます」と指摘した。
さらに、富田氏は「他の人々がまだ気付いていない『終末の到来』を自分は知っているわけですから、これにより『優越感』を抱くことができ、巨大な社会に埋もれることで失っていた『自己効力感』を取り戻すこともできます」と付け加えた。
1999年といえば、バブル崩壊後にインターネットが急速に普及し、時代の激動と共に未来が読めなくなり、スピリチュアルブーム真っただ中でもあった。2025年の今、気候危機や感染症、AIの台頭や国際紛争など、さらに激動する時代にあって、少なからず、心のどこかに抱いている「終末」に対する希望は今なお生き続けているのかもしれない。