誕生日と命日が重なる「生没同日」の著名人がいる。その中には、8月17日に生まれ、同日に亡くなったイラストレーターがいた。ウイスキーのCMで国民的キャラクターとなった「アンクルトリス」を描いたことでも知られる柳原良平だ。その集大成となる著書「柳原良平 仕事と作品」(玄光社刊、税込3630円)が8月に出版された。(文中敬称略)
「生没同日」の著名人をたどると、日本の旧暦では坂本龍馬(天保6年11月15日生、慶応3年同日没)が知られるが、西暦に統一すれば、日本人では世界的な映画監督である小津安二郎(1903年12月12日生、63年同日没)、俳優の船越英二(1923年3月17日生、2007年同日没)、女優・作家・福祉事業家の宮城まり子(1927年3月21日生、20年同日没)らがいる。海外では女優のイングリッド・バーグマン(1915年8月29日生まれ、82年同日没)もそうだ。
柳原は1931年8月17日に生まれ、 2015年の誕生日に84歳で亡くなった。54年に寿屋(現・サントリー)に入社。2頭身の名物キャラ「アンクルトリス」の生みの親となり、グラフィックデザイナー、イラストレーター、装丁家、絵本作家、アニメーター、エッセイスト、ライフワークとなった「船」を描く画家などとして半世紀以上にわたって活躍した。その名を知らなくても作品のタッチに見覚えのある人は多いだろう。
新刊では広告や漫画、絵本、ポスター、チラシ、テレフォンカード、コースター、レコードジャケット、様々なグッズといった多岐にわたる作品や、コンビを組んだ作家・山口瞳、開高健の著書の表紙絵なども掲載。日本の高度成長期に残した足跡をたどることができる。
関係者による文章やインタビューも掲載。作家でタレントの阿川佐和子は父の作家・阿川弘之の著書の表紙絵を柳原が描いていたという縁を踏まえ、「まるでアンクルトリスが生身の人間になったのかと思うほどよく似ていると思った」「ご機嫌な紳士だった」などと寄稿したエッセイで綴っている。
その柳原自身はインタビューで「絵が思うようにならないしんどさは、一種の楽しみみたいなもので、しんどくない絵なら、描かないほうがいい」などと表現者としての哲学も語っている。
没後10年の節目、横浜みなと博物館の特別展示室では9日から企画展「柳原良平をかたちづくるもの―船・アンクルトリスそして横浜―」が始まった。10月13日までの約2カ月間、柳原が50年以上にわたって暮らした「横浜」を描いた作品などが展示される。