良かれと思って、「〇〇君、また遅刻か。少し意識が低いんじゃないか?」と部下にかけた言葉に対して、「それ、パワハラですよ!」と反論された経験のある人もいるだろう。部下からのハラスメント指摘を恐れるあまり、正当な指導さえできなくなる「ハラスメントハラスメント(ハラハラ)」、または「逆ハラ」とも呼ばれる状況である。
このような状況で適切な指導をおこなうためには、上司はどうすればいいのだろうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いた。
ー指導とパワハラの境界線はどこにあるのでしょうか
この2つを明確に分ける境界線は、「事実の指摘」か「人格攻撃」かという点にあります。例えば、遅刻を繰り返す部下に対し、「今週で3回目の遅刻だよ。会社のルールに違反しているので理由を教えてほしい」と伝えるのは、客観的な事実に基づいた指導であり、業務上必要かつ正当な範囲である。
一方で、「君は本当にだらしないな」「やる気がないから遅刻するんだ」といった言葉は、事実から離れ、相手の人格や性格を否定する「人格攻撃」になってしまっています。本人の主観や感情が入り混じったこれらの表現は、パワハラと認定される可能性が高くなるでしょう。
言い方や指導の場所も考慮されます。たとえ事実を指摘する場合でも、衆人環視の状況で大声で怒鳴りつけたり、会議室に1時間も詰問したりする行為は、社会通念に照らして「業務上相当な範囲」を逸脱していると判断されかねません。
ー部下から「ハラスメントだ」と指摘されたらどうすればいいでしょうか
大事なのは、感情的に反論したり開き直ったりしないことです。「お前のことを思って言っているんだ」「そもそも遅刻するお前が悪いんだろう」といった態度は、事態を悪化させる最悪の対応です。
相手の指摘を一度受け止め、自身の言動を冷静に振り返り、もし「ノロマ」「だらしない」といった人格を否定する言葉を使ってしまっていたのであれば真摯に謝罪しましょう。
ー「ハラハラ」に対処するために必要な知識やスキルはありますか
感情をコントロールするスキルと、十分な知識が求められます。「部下を自分の思い通りに動かそう」と考えていると、パワハラを生む温床になりかねません。あくまでも会社のルールに基づき、業務上の「改善要求」を伝える立場であることを忘れないで置きましょう。
上司は自身の感情をマネジメントし、常に冷静でなければなりません。自信を持って指導に臨むために、何がパワハラに当たり、何が正当な指導なのかという明確な知識を持ちましょう。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。