電車の優先座席に座っていた際、近くで立っていた妊婦に気づいて席を譲ろうとしたところ、横にいた健康そうな高齢者が「年配の自分が座る」と主張した。そんな時、どう対応すればいいのだろうか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がその対策を提言した。
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【今回のピンチ】
昼間の空いている電車で優先席に座っていた。だんだん混み始めて、近くに妊婦さんが立っていたので「どうぞ」と立ち上がったら、横の元気な高齢男性が「俺が座る」と……。
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外回りの途中で、昼下がりの電車に。席がほぼ埋まっている混み具合です。必要とする人が乗ってきたらすぐ譲るつもりで、とりあえず優先席に座りました。
駅に停まるたびに徐々に混み始めて、ふと見ると目の前に妊婦さんが。バッグにヘルプマークのタグも付いています。躊躇(ちゅうちょ)する必要はまったくありません。すぐに立ち上がって「どうぞ」と席を譲りました。
ところが、予想外の事態が勃発。妊婦さんが「ありがとうございます」と言って座ろうとしている横から、高齢男性が「俺の方がずっと年上だ。俺が座っていいよな」と、席を横取りしようとしてきました。妊婦さんは立っているのもつらそうですが、その男性は明らかに元気ハツラツです。
妊婦さんは、戸惑いつつも「あっ、どうぞ」と言っていますが、このまま男性に座られるのは納得いきません。というか、絶対に許せません。かといって「引っ込んでろ、ジジイ!」と一喝したら、きっと面倒な展開になります。間に挟まれた妊婦さんにも、気まずい思いをさせてしまうでしょう。
図々しい乱入者によって引き起こされた思わぬピンチ。どう切り抜ければいいのか。
精いっぱい穏やかに「すみません。私はこちらの方に譲ったんですが」と言ったところで、その男性が素直に引き下がるとは思えません。もう一度腰を下ろして「じゃあ、やっぱり譲るのはやめます」と席をガードしても、平和な展開にはならないでしょう。
なるべく波風を立てない方向を模索するなら、男性に「先輩、粋なジェントルマンとしては、ここはレディーファーストでいきませんか」と言ってみる手はあります。理性と恥の気持ちが少しでも残っていれば、「そ、そうだな」と納得する……といいですね。
仮に男性がいったん引き下がったとしても、気が変わって因縁をつけてくる可能性があるので、妊婦さんの前に立ってガードした方がいいでしょう。こうなった以上、席を譲ればおしまいという話ではありません。
結局のところ、ストレートに「あなたには譲ってません。お座りになりたいなら、ほかを探してください」とキッパリ告げるのが、困った高齢男性を撃退する上でもっとも効果的かも。なおもブツブツ言ってくるようなら「自分が情けなくないですか?」と問いかけてみましょう。
そんな面倒でリスキーな戦いを挑むぐらいなら、妊婦さんも「どうぞ」と言ってくれていることだし、高齢男性に座らせる道もあります。しかし、そうした場合、あとで激しく腹が立ったり、根深い自己嫌悪に苛まれたりするのは確実。ここで一歩引いてしまうのは、けっして「賢い選択」とは言えません。
乗り掛かった舟ならぬ譲りかけた席です。中途半端なところで逃げず、最初に抱いた怒りを貫き通すのが、降ってわいた理不尽なピンチを乗り越える王道と言えるでしょう。