akiya_b

映画「アノーラ」の高評価も後押しに…向田邦子賞の脚本家が描いた〝性依存症〟女性の物語、3日から上演

北村 泰介 北村 泰介
劇団「東京マハロ」主宰の脚本家・矢島弘一。演出家としても5月の公演に意欲を示す
劇団「東京マハロ」主宰の脚本家・矢島弘一。演出家としても5月の公演に意欲を示す

 カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)に続き、米アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など最多5部門を受賞した映画「アノーラ」では、セックスワーカーである女性の生き様が強烈な印象を残した。そんなテーマに共通性もある演劇作品が近く都内で上演される。劇団「東京マハロ」の7年ぶりとなるリバイバル公演「明日、泣けない女。昨日、甘えた男」(5月3日~11日、新宿シアターサンモール)で、脚本・演出を担当した主宰者の矢島弘一に都内の稽古場で話を聞いた。

 矢島は今作について「漁師町という小さなコミュニティーで、性依存症に悩む一人の女性が解放されていく姿を描いています。7年前に執筆した当時、性依存症はまだオープンにするものではなかったのでチャレンジでした」と説明。「今回、作品をブラッシュアップしている最中に『アノーラ』がアカデミー賞を取ったので、まさにドンピシャだなと。勝手に、背中を押されている気になっています」と手応えをつかむ。

 性依存症に悩む主役にはAKB48出身の女優・増田有華。矢島は「初演時の脚本は、昔、好きな人に書いたラブレターを読み返すような恥ずかしさもあって、これじゃいかんなというところからもう一回、書き直しました。主人公の年齢を前回の18歳から29歳という設定にしたことで、考え方や感情、周りの接し方も変わっていった」と打ち明けた。

 「初演時は『セックス依存症はこんな感じの悩みで、こういう人たちがいる』といった〝ガワ〟(表面)を柱にやっていたんですけど、最近は『人を通してそれを伝える』という描き方を意識している。『分からない』という中、悩んで寂しくて…という女性の日常と周囲の登場人物が触れ合うことで、世の辛さやひずみが見えてきて、じんわりと何かが客席に届けばいいなという考え方に変わった」

 劇団マハロの旗揚げは2006年。今回は、演劇公演プロデュース会社「テッコウショ」の主催で、矢島は「初めて劇団員を入れない公演」になった」と明かす。小川菜摘、岡元あつこらテレビでも活躍してきたベテランのキャストも顔を並べる。矢島は「いつもの劇団公演とは違って(外部の)キャリアのある方の出演が今回は多いです。自分自身も劇団員がいると甘えて頼ってしまうが、そんな逃げ道をあえてなくした」という。

 今年8月で50歳の節目を迎える。改めて自身の経歴を振り返った。

 「実家の運送店を継がなきゃいけなかったんですけど、スポーツクラブでトレーナーのアルバイトをしていまして、その時に『声がいいね』と言われて、結婚式の司会をやり始め、ナレーションの学校にも行ったら、『芝居やったら』と言われて演劇の学校に。その時で30歳になっていて、有名な事務所にも入れなかったので、自分で劇団を立ち上げたら芝居の主演ができるという単純な理由で旗揚げし、自分で演出もやって、脚本も書いて今に至ると。だから、最初から『これを伝えたい』というのはなかったんです」

 その流れでテレビドラマの脚本も書いた。16年に放送された前田敦子主演のTBS系ドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」で向田邦子賞を受賞。「初めて書いた連続ドラマの脚本でしたが、訳が分からない内に表彰されて、どうなっていくんだろうという感じでした」。同作によってその才能が注目を集め、21年には大手芸能事務所「ケイダッシュ」に脚本家として入所した。

 とんとん拍子に人生が好転しているようにみえるが、矢島は「スタートが遅かったので、いまだに『新進気鋭』と言われるんですけど、50歳で新進気鋭って恥ずかしいじゃないですか(笑)」と自らにツッコむ。「来年の劇団旗揚げ20周年では大きいものやろうと思っていますが、まだあまり考えてなくて、どうしていけばいいんだろうと悩んでいるところはあります。やめることは絶対ないですけど」と自然体を貫く。

 ヤクルト・スワローズの応援が生活に溶け込んでいる。「基本、神宮球場にいます」という筋金入りのツバメ党。そうした息抜きの時間も必要なのかと問うと、矢島は「いや、芝居にも反映されていますよ」と笑顔で言い切った。興味の対象が何であれ、日常の喜怒哀楽は常に創作に反映されていく…ということかもしれない。

よろず〜の求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース