〝バカ映画の巨匠〟最新作でも示した興行師の影響「ベラボーな非常識」、盟友・西村修さんの魂も「不滅」

北村 泰介 北村 泰介
今年2月に開催された康芳夫氏を「偲ぶ会」に出席し、献花台の前でポーズを取る映画監督の河崎実氏=都内
今年2月に開催された康芳夫氏を「偲ぶ会」に出席し、献花台の前でポーズを取る映画監督の河崎実氏=都内

 〝バカ映画の巨匠〟として知られる映画監督・河崎実氏(66)の最新作「松島トモ子 サメ遊戯」が4月4日から都内のヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサなどで全国ロードショー公開される。タイトル通り、猛獣に襲われながらも生還したベテラン女優がサメと戦うというストーリーだが、そこには河崎作品に俳優として出演し、昨年12月に死去した〝稀代の興行師〟康芳夫氏(享年87)の影響を感じさせる世界観があった。都内で開催された康氏を「偲ぶ会」で河崎監督を直撃して話を聞いた。

 「松島トモ子」といえば、1950年代に名子役として一世を風靡したことに加え、86年にテレビ撮影で訪れたケニアでライオンとヒョウに2度にわたって襲われ、ギプス姿で帰国会見をして話題になったことでも知られる。それから39年、今年7月で傘寿を迎える松島が凶暴なサメと戦うという〝非常識〟な映画が誕生した。さらに、パンクラスや新日本プロレス、PRIDE、UFCなどで活躍した格闘家ジョシュ・バーネットの出演なども注目される。

 「人間と猛獣の戦い」という企画は現実にあった。77年1月、日本の空手家とインドで捕獲された体重170キロの虎がカリブ海の国・ハイチのサッカースタジアムで同年2月に対戦するというプランが都内で発表された。テレビ中継やドキュメンタリー映画化も計画され、その仕掛け人が康氏だった。

 だが、絶滅危惧種の虎を見世物的に扱うことへの国際世論の反発が起こり、世界動物愛護協会の会長でもあったフランスの女優ブリジット・バルドーの働きかけもあって、試合の4日前にハイチ大統領の命令で中止に。康氏は生前、当サイトの取材に「虎1匹のため、大国のアメリカがハイチに経済制裁をちらつかせるほどの国際問題になるとは…。そんな興行はこれからもお目にかかれないでしょう」と回顧していた。

 そんな康氏の世界観と河崎作品の親和性は、康氏が「干支天使チアラット」(2017年)と「シャノワールの復讐」(18年)という河崎監督の2作品に連続出演したことからもうかがえる。河崎氏は「オファーしたら、もちろん快諾いただきました。宇宙人の役でした。この人を役者で(2作も)使おうなんて人は僕くらいしかいないでしょう」と振り返り、「康さんから受けた影響は『常識を超えたベラボーな非常識なこと』の追求です」と明かした。

 さらに、河崎氏は「面白かったのは、5年ほど前、康さんと打ち合わせした都内のホテルに偶然、アントニオ猪木さんがおられて、康さんは『猪木君』って話しかけているんですよ。猪木さんを〝猪木君〟と呼べる人はなかなかいない」と笑顔で懐かしんだ。ちなみに、超大物への「君(くん)」付けは猪木氏だけではない。偲ぶ会で、小説家の島田雅彦氏は「康さんと話していると、一度、『ミック君が…』と言われたことがあって、『ミック君って誰ですか?』と聞いたら、ミック・ジャガーでした。アラン・ドロンは『ドロン君』。こんなに、すごい友だちが世界にいる人もいないなと思いました」と証言していた。

 代表作「いかレスラー」(04年)で主演したプロレスラーの西村修さんが2月28日、がんのため53歳の若さで亡くなった。昨秋、闘病中だった西村さんの応援イベントを開催するなど、復活を待ち望んでいただけにショックは大きい。盟友の死に向き合いながら、全国順次公開中の映画「サイボーグ一心太助」も含めた新作公開で前を向く。

 河崎氏は「西村選手の逝去は本当に悲しいですが、映画に込めたベラボーな魂は永遠に生き続けます。新作2本も常識を超えた映画になっていますので、よろしくお願いします!!」とアピールした。

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