お笑いコンビの霜降り明星・せいやによる半自伝小説『人生を変えたコント』(ワニブックス)が10万部超えのヒットを記録中。高校時代に体験したいじめを自ら作ったコントで打破した経験を軽妙なタッチで描いた同作は幅広い層に支持されており、今後さらに売り上げが増えそうだ。
芸人が書いた小説といえばピース・又吉直樹や劇団ひとりらが有名だが、他にも多くの芸人が小説をリリースしている。そこでお笑いと読書を愛する筆者が選ぶ「本当に面白い」芸人小説を5作紹介する。
まずは、男女コンビのラランド・ニシダによる短編小説集『不器用で』(KADOKAWA)。クズ芸人としても知られるニシダだが、実は年間100冊以上を読破するほどの読書好き。そんな彼の処女作は独特のテーマや切り口が印象的な5作の短編が収録された一冊だ。おすすめは「焼け石」という作品。スーパー銭湯で男性用サウナの清掃をする女子大生と新人バイト男性との関係性を文学的な比喩表現を使って描く、ハイクオリティな“純文学”になっている。
続いては『キングオブコント2020』王者でシュールなコントをウリにするジャルジャル・福徳秀介が書いた『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館)だ。冴えない大学生が不思議な魅力を放つ女性と出会い、恋に落ちていく様子を切なく綴った本格ラブストーリーで、キャラクターの生き生きしたセリフや繊細な心情描写に思わず感情移入して涙を流すること必至だ。
毒のある芸風で人気のインパルス・板倉俊之の初小説『トリガー』(リトルモア)は善悪の曖昧さをテーマにした秀逸なハードボイルド小説だ。国王制になった日本で、各県に一人ずつ悪人を射殺することを許された「トリガー」と呼ばれる人たちの葛藤を軽快でキレのある文体で綴った一作で、あっと驚く意外な伏線回収にも注目だ。
続いては、お笑いコンビ「カリカ」を解散後も舞台やドラマ脚本、演出家として活躍するマンボウやしろの『あの頃な』(角川春樹事務所)。コロナ渦に生活が一変した人々の悲哀をブラックユーモアやSF要素を入れて描いたショートショート集だ。テンポのよい文体と皮肉めいた切り口が心地よく、コメディだけでなくほろ苦く切ないストーリーもあり、読み応えのある作品だ。
最後は、現役書店員でもあるお笑いコンビ・デンドロビームのカモシダせぶん(36)による『探偵は パシられる』(PHP研究所)だ。番長の「パシリ」をさせられる主人公が身の回りで起きる問題を必死に解決していくコメディタッチのミステリーで、憎めない主人公のキャラクター像と鮮やかなオチが痛快な一作だ。
今年の年末年始はお笑い番組を楽しむのはもちろん、知る人ぞ知る芸人小説を読んで過ごしてみるのもオツかもしれない。