戦前から戦後にかけて活躍した歌手・笠置シヅ子(1914-85年)をモデルとしたヒロインの半生を描いたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』が3月末で終了した。ネット上には「ブギウギ・ロス」という言葉もあふれる中、笠置が終戦直後の昭和20年代に出演した5本の映画に加え、新たに発見された戦前の貴重なフィルム映像がCS放送「ホームドラマチャンネル」で5日から「連続企画 ブギの女王・笠置シヅ子特集」 と題して放送される。7月まで続く同企画の実現に尽力した娯楽映画研究家・佐藤利明氏がよろず~ニュースの取材に対し、注目点を解説した。
『ブギウギ』では笠置がモデルの福来スズ子を演じた趣里がステージで躍動したが、本人が歌い踊る姿を確認できるのは当時製作された映画のみ。歌手としての全盛期に出演した映画にはMV(ミュージック・ビデオ)さながらの歌唱シーンがふんだんに盛り込まれている。
5日が初回放送(7日再放送)の「春の饗宴」(1947年/東宝)では劇中に「東京ブギウギ」と「センチメンタル・ダイナ」、7日放送(5月12日再放送)の「舞台は廻る」(48年/大映)には「ラッパと娘」と「ヘイヘイブギー」が登場。5月12日放送の「脱線情熱娘」(49年/松竹)では「アイレ可愛や」「ジャングル・ブギー」、6月放送予定の「ペ子ちゃんとデン助」(50年/松竹)では「買物ブギー」、7月放送予定の「ザクザク娘」(51年/松竹)では「コペカチータ」などが歌われる。
いずれもソフト化されていないレアな作品ばかり。「春の饗宴」では二枚目スター俳優の池部良と共演し、「ペ子ちゃんとデン助」や「ザクザク娘」では喜劇俳優の堺駿二(※堺正章の父)と息の合った掛け合いを披露する。
佐藤氏は「『ザクザク娘』のクライマックスでは、笠置さんと(作曲家)服部良一さんの4か月に渡るアメリカツアーで出会ったジャズの即興演奏『ビバップ』をいち早く取り入れた『オールマン・リバップ』のナンバーが圧巻です。服部先生が戦時中に上海で出会った『ブギウギ』が、戦後の『東京ブギウギ』に結実したように、『ブギの女王』が新しいジャズのスタイル『ビバップ』に挑戦している。それを映像で体感できます」と解説した。
さらに、神戸映画資料館(神戸市)で見つかった戦前の「笠置ライブ映像」もオンエア。1939年から40年にかけて収録されたと思われる映像で、服部が初めて笠置のために手がけた「ラッパと娘」をスイングのリズムとトランペットとの掛け合いで歌う。「ブギウギ」でも趣里によって再現されたが、当時20代の笠置が「バドジズデジドダー」とルイ・アームストロングばりのスキャットをたたみかける「ラッパと娘」のソウルフルな歌声は日本におけるスイング・ジャズの一つの到達点だ。
また、「ほっと ちゃいな(ホット・チャイナ)」「ハリウッド見物(紺屋高尾の聖林見物)」と題した歌や、笠置が所属したSGD(松竹楽劇団)のメンバーも登場するなど、資料価値の高い映像が「笠置シヅ子スヰング伝説」として1本の番組にまとめられ、6月の放送が決まった。
佐藤氏は「戦前の『動く笠置シヅ子』の映像は、これまで存在しないと思ってきました。1938年から41年にかけて笠置さんと服部先生が出会ったSGDのステージは日本のジャズ史において重要です。想像もしなかったすごい映像が発掘されたことは奇跡でもあり、とても意義のあること。ノーカットで放送し、各作品の前後に僕が解説をしていきます」と付け加えた。
2枚組CD「ブギウギ伝説 笠置シヅ子の世界」(14年発売、日本コロムビア)の監修を務め、昨秋の朝ドラ放送開始に合わせて「笠置シヅ子 ブギウギ伝説」(興陽館)を世に出すなど、笠置研究の第一人者である佐藤氏。「笠置さんは『ブギの女王』時代に25本の映画に出演し、数々のヒット曲を歌う姿がフィルムに記録された。趣里さんによって『ラッパと娘』『センチメンタル・ダイナ』『東京ブギウギ』『買物ブギー』などが再現されましたが、本物の笠置さんの圧倒的なパフォーマンスが披露されている映画を観てほしい。『ブギウギ』ロスの4月から本物の『ブギの女王』に出会えます」とアピールした。