糖尿病による失明と向き合うホラー漫画家・御茶漬海苔が、漫画家でタレントの浜田ブリトニーらのサポートを受けながら、引退の危機を乗り越え、新たな表現形態での〝復活〟を模索している。御茶漬海苔と浜田が、よろず~ニュースの取材に対し、その思いを吐露した。(文中敬称略)
御茶漬海苔は約2年前に右目の視力を完全に失い、昨年11月には左目も見えにくい状態となって、年末に緊急手術した。病名は「血管新生緑内障」。今年2月中旬には左目に光が差し、浜田は「私のネックレスを見て『十字架、付けてるね』って分かったの。『見えるようになってきたね』って一緒に喜びました」と振り返った。
今月15日、浜田が東京・浅草で営む漫画ギャラリー・レストラン「オカオカ本舗」で開催されたイベントの客席に御茶漬海苔の姿があった。
視力と共に仕事を失った同氏は昨年、浜田の呼びかけで、川崎から浅草に転居。「まだ、独り歩きは危ないので、付き添いの人と一緒に歩いています。人力車のお姉さん、寿司屋の大将…。浅草は人が優しくて助けられています」。そんな同氏に左目の回復具合を確かめた。
「体調はいいんですが、目は全然、見えません。病院で5種類の目薬をもらい、点眼していたら、2日間で左目も全然見えなくなりました。調子がいい時は光が見えたんですが…。目に傷が付いているのを治そうとする薬みたいで、先生が(治ると)言うんだからしょうがないです」
回復の兆しからの暗転。いったん視力を失った後で、徐々に回復していく可能性を信じるしかない状況だ。
「一番売れていた時で年収3000万円、現在は年金生活」「漫画家は引退状態」という近況が報じられたが、引退はしていない。
御茶漬海苔は「ずっと寝ていると飽きちゃうから、いろんなことが頭に浮かぶ。人体模型図が動き出す(イメージ)とか…。覚えているのも限界があり、忘れてしまうので、思い付いたことをレコーダーに吹き込んでおけば、それを頼りに作品を作れます」と説明。自力で作画ができなくても、声でイメージを伝えて作品化する道に活路を見いだす。
2月から3月にかけて「オカオカ本舗」で御茶漬海苔の作品展とトークショーが開催された。浜田は「原画もたくさん売れて、漫画家の先生やお客さんもたくさん来てくれた。御茶(おちゃ)先生も喜んで、『新しい作品に挑戦したい』と前向きです。絵が描けなくても『原案』はできる。それを元に作品を作り上げるんだと積極的になってくれて。8月に『真夏の展示会』ができたら」と意気込む。
浜田は小学生だった1980年代末期に御茶漬海苔の代表作『惨劇館』に出会った。「ホラー漫画ブームの中でも、御茶先生の繊細なタッチが私の中で響いた。それから漫画にはまり、先生の単行本は全部集めました」。〝ギャル漫画家〟として世に出た後、念願の初対面を果たした。
「12年くらい前、出版社のパーティーで初めてお会いした時から『ずっと一緒にいた人』のような感じがした」。約10年前から東京・西新宿にあった自身の店を拠点に、御茶漬海苔、『つるピカハゲ丸』の作者・のむらしんぼ、『まいっちんぐマチコ先生』の作者・えびはら武司と浜田の4人で「漫画に魂をかける塾」、略して「漫魂(まんたま)塾」を発足。生徒を集め、月1回ペースの授業を8年間続けたが、その末期には体調悪化により、店内で「ヨダレを垂らし、泡を吹く」という状態を目の当たりにした。店の浅草移転を機に、近くで寄り添う。
「(仲間らと)ローテーションで御茶先生の家に行き、身の回りの世話をしています。目が見えなくなる絶望で、叫んだり、パニックになったり、弱みを出したことも多々ありましたけど、今は体調も落ち着き、ボイスレコーダーに先生の声を入れて作品にしようという話をしたり。不労所得みたいな収入が定期的に入るシステムも今、一生懸命に作っています。他人の手に渡っていた著作物の権利も買い戻しました。(2月に)著作権問題が解決した日、(断酒中の)先生もショットグラスで一口だけビールを飲んだ。すごく、いい顔でした(笑)」
浜田は現在、自動車免許を取得中。「専門の病院が遠いですし、気晴らしができるように、山とか海とか、いろんな所に連れて行ってあげたいから」。周囲はその献身的な姿に感心するが、自身に「世話をしている」という意識はない。
「私の方が御茶先生にお世話になってます。先生は人のことを絶対に悪く言わないし、だまされても相手を許せる人。一緒にいるだけで、日々勉強させてもらってる。自分さえ良ければいいとか、人のことが許せないとか、そんな心が先生と一緒にいるとなくなって、私自身が変われた。だから、いつも言うんです。『御茶先生、長生きしてくださいね』って。でないと、私、恩返しできないので。先生、まだ若いし、もう一回、花を咲かせることができるようにサポートしていきたい」
御茶漬海苔は「5分間の『音声 惨劇館』というものをやりたい」と明かした。浜田にとっても原点となった作品を元に、原作者の音声によって1話を5分間で表現するという構想だ。「ブリちゃんには感謝です」。4月で64歳。自身の「再生」と同時に、浜田への〝恩返し〟も胸に秘めた。