大ヒット曲「私は泣いています」りりィの映画公開、ライブと証言で構成 研ナオコが曲提供を断った裏話も

北村 泰介 北村 泰介
映画「りりィ 私は泣いています」で〝もう1人の主役〟となったギタリスト・齊藤洋士(左)と高間賢治監督=都内のアップリンク吉祥寺
映画「りりィ 私は泣いています」で〝もう1人の主役〟となったギタリスト・齊藤洋士(左)と高間賢治監督=都内のアップリンク吉祥寺

 半世紀前に「私は泣いています」という大ヒット曲があった。作詞作曲して歌ったシンガー・ソングライターで女優の「りりィ」(本名・鎌田小恵子)は2016年に64歳でこの世を去ったが、晩年の音楽活動と交流のあった人たちのインタビュー映像で構成したドキュメンタリー映画「りりィ 私は泣いています」が全国順次公開中だ。歌手・研ナオコ、俳優・豊川悦司、ロックバンド「男闘呼組」の高橋和也らの証言を一部紹介し、高間賢治監督と〝りりィの相方〟だったギタリスト・齊藤洋士に話を聞いた。(文中敬称略)

 りりィは72年にメジャーデビューし、74年発売のシングル「私は泣いています」が87万枚を超える大ヒットに。70年代は、坂本龍一、伊藤銀次ら、そうそうたるメンバーがいた「バイ・バイ・セッション・バンド」を率い、幅広い音楽性を発揮した。女優としては大島渚監督の「夏の妹」(72年)、松田優作と共演した「処刑遊戯」(79年、村川透監督)といった映画に出演。活動休止期を経て、97年放送のTBS系ドラマ「青い鳥」出演を機に、数々の映画やドラマで存在感を示した。

 99年から齊藤とのユニット「りりィ+洋士」で全国を回り、今作はこの2人に焦点を当てる。撮影期間は13年から亡くなる前年までの2年間。東京の新宿と渋谷、栃木・宇都宮、愛媛・内子町で行われた計4回のライブから13曲を収録した。

 映画カメラマンの第一人者として長年活躍してきた高間監督は、13年に川崎市内で映画界の仲間が営む店で行われた「りりィ+洋士」のライブに誘われ、その音楽を生で初体験した。「私は泣いています」が街中で流れていた74年当時は25歳。既に撮影助手になっていたが、「音楽には疎かった」という。

 「『私は泣いています』以外の曲を知らず、お顔すらもはっきり認識していなかった、そんな私が感動したんです。初めて聴く歌はもちろん、齊藤さんのMCで紹介された彼女の生い立ち、本人の穏やかな笑顔に。(その日の客)15人だけで聴くのはもったいない。映像に記録して残さなきゃ…と」。思い立ったが吉日、オファーして快諾された。当初は10年間撮影する構想が2年で中断。模索した末、不在となった主役を、生前交流のあった人たちの証言を重ねることで多角的に浮き上がらせた。

 研は「りりィが『私、ナオコちゃんに曲作ったの』って、ギター弾いて『私は泣いています』を歌ってくれた。すごくよくてね。『その声で歌われたら、他の人は歌えないから、これは私(の曲)じゃない。りりィ、歌って』って返したんです」。そして、盟友の死から3年後の19年、研は同曲をカバーした。

 豊川は主演ドラマ「青い鳥」に、りりィを推薦。翌年には自身が演出したフジテレビ系ドラマ「美少女H 父、帰る」にも当て書きしてキャスティングした。豊川は「浮遊感を持った方。ワンアンドオンリーの存在感があった」と振り返る。映画監督の岩井俊二は、この豊川作品を見て映画「リップヴァンウィンクルの花嫁」(16年公開)に出演を依頼。「懐の深さ、独特の雰囲気」に魅了され、主演作を構想していたことを明かす。

 高橋は父が経営するライブハウスに出演した「りりィ+洋士」のバックでベースを弾いたこともあったという。69年生まれの高橋は「70年代の新宿文化など、そういう時代の『精神の自由さ』『旅人』といったライフスタイルがステージからにじみ出ていた」と憧れを語った。女優の根岸季衣はカラオケでりりィが歌った「石狩挽歌」に「鳥肌が立った」、歌手の山崎ハコは「憧れの人。フィーリングが好きだった」と敬意を表した。

 85年生まれの長男でミュージシャンのJUONは幼少期に母と「どんなに辛くても、辛いことと思わないように生きていこうね」と約束。妻の吉田美和(DREAMS COME TRUE)と共にりりィを支えた。16年11月11日に永眠した母の通夜では、76年に資生堂のCMソングにもなった、軽快で希望にあふれたヒット曲「オレンジ村から春へ」(詞曲・りりィ)で送り出した。

 齊藤は南房総の海に臨む千葉・鴨川でりりィと20年近く暮らした。パートナーの死後、アルコール依存症となり、入院。リハビリを経て22年からソロで活動を再開した。今回、都内の上映館・アップリンク吉祥寺では公開初日の16日から29日の最終日まで連日、同作に出演しているハーモニカ奏者・深沢剛らと上映後のステージでミニライブを行っている。JUONは25日、高橋は26日に合流した。

 高間監督は、りりィの魅力について、ライブで包まれる「心地よい幸福感」を挙げ、今回の上映と生演奏のコラボ実現に「うれしくて…」と涙ぐんだ。齊藤は「ヒット曲はなかったけれど、晩年の僕らのサウンドをぜひ聴いてほしいと思います」。りりィは沖縄と鴨川の海に散骨されたが、音楽は生き続ける。

 同作は3月に山形と大阪で、その後も愛媛(松山)、長野、新潟、名古屋などで上映が予定されている。

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