電車内でスマホの画面に見入る乗客の姿が日常の光景となって久しい。ところが、スマホに意識を集中するあまり、周囲で突然発生した出来事に対応できず、さらには誤解や行き違いからトラブルに発展するケースもあるようだ。その一例として「変顔で赤ん坊を泣かしてしまった」場合の対処法について、「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が解説した。
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【今回のピンチ】
電車で赤ん坊を抱いた母親の隣りに座った。母親はスマホに見入っている。赤ん坊を笑わせようと変顔をしたら、いきなり号泣。母親に「何するんですか!」と怒られた……。
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抱っこされた赤ん坊は、母親の肩越しにこちらの顔を凝視しています。その視線に応えて、何種類かの変顔を披露。赤ん坊がキャッキャと笑ってくれる展開を予想していたのに、とんだことになってしまいました。
もしかしたら母親は、赤ん坊がホッペをつつかれたとか、怖い顔でにらまれたとか、こっちが「危害」を加えたと勘違いしているのかもしれません。誤解や早とちりは誰しもあることですが、濡れ衣を着せられて何も言わずに引き下がったら、悔しさやムカムカした気持ちが長く尾を引きそうです。
「スマホばっかり見てるから、そんな勘違いをするんだ!もっと子どもを見てろ!」と反撃したくなるかもしれません。しかし、もし相手が屈強な男性だったら、反撃しようとは思わないはず。相手を見た上で強気に出るのは、かなり卑怯です。
子連れで出かけているときの母親の緊張感は、半端ではありません。子どもを守るために時に凶暴になるのは、人間もクマも同じ。スマホだって、そのタイミングで見ざるを得ない必要があったのでしょう。
横に座った赤ん坊を笑わせようとしたのは、母子へのやさしさにあふれた崇高な行為です。乗り掛かった舟というか初志貫徹というか、思いがけず母親に怒られたことにめげないで、やさしい対応を貫きましょう。それが大人の粘り腰です。
まずは「な、泣かせちゃってすみません。笑わせようと思って……」と、引き起こした結果について謝罪した上で、善意によるアプローチだったことを明確に伝えます。焦った口調で恐縮している様子を前面に押し出したほうが、母親は落ち着いてくれるでしょう。
その上で、子どもを怖がらせるようなことはしていないと示すために、「こういう顔を見せてたんです」と言いつつ、赤ん坊の前でやっていた変顔を母親に向けて再現します。
母親が「プッ」と噴き出してくれれば、それでよし。子育てでたいへんな見ず知らずの女性に、小さな笑いのネタを提供できた満足感を味わえるでしょう。
あるいは、いきなりの変顔に不気味さを感じた母親が、そそくさと席を立ってしまったとしても、それはそれでまたよし。今夜の食卓で「今日、ヘンな人に会っちゃった」と話題になり、家族団らんの一助になれたら本望です。そう思えば、誤解で怒られた悔しさも、公衆の面前で変顔をした恥ずかしさも、きれいさっぱり昇華されるでしょう。