ガンダム名曲の絆 米倉千尋が鵜島仁文さん急逝から1年で思うこと「私の音楽に筋肉を付けてくれた」

山本 鋼平 山本 鋼平
米倉千尋
米倉千尋

 数々のアニメ、ゲームソングを担当した歌手、シンガーソングライターの米倉千尋は今年でデビュー28年目。多くの恩人に支えられてきたが、その中でも昨年8月に食道静脈瘤破裂のため急逝したシンガーソングライターの故・鵜島仁文さん(享年55)に対しては「私のポジティブなスタンスを、鵜島さんの楽曲、熱い歌詞がさらに強くしてくれたように思います。私の音楽の骨格に、筋肉を付けてくれた」と、特別な思いを抱く。

 米倉は1996年、OVA「機動戦士ガンダム第08MS小隊」のオープニング主題歌「嵐の中で輝いて」、同エンディング主題歌「10YEARS AFTER」でデビューを果たした。鵜島さんとは同挿入歌で、同年に発売されたシングル「未来の二人に」のカップリング曲「私の勇気」で初めて楽曲提供を受けた。以降は「永遠の扉」(98年、劇場アニメ「機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート」主題歌)、「WILL」(99年、アニメ「仙界伝 封神演義」オープニング主題歌)、「FEEL ME」(99年、ゲーム「Revive 〜蘇生〜」主題歌)、「Butterfly Kiss」(01年、アニメ「RAVE」オープニング主題歌)など多くの代表曲で名前を並べた。

 鵜島さんは1994年に作詞・作曲を自ら手がけた「FLYING IN THE SKY」(「機動武闘伝Gガンダム」オープニング主題歌)でデビュー。90年代後半にはプロデュースに専念する時期があったが、後にライブ活動を再開。2011年には川添智久とのユニットTOPGUNと米倉がコラボした「Naked Soul」(ゲーム「SDガンダム ジージェネレーション ワールド」主題歌)を発表した。2009年頃からはガンダム、スーパーロボット大戦関連の音楽イベントにも度々参加するようになった。

 米倉は「私のポジティブなスタンスを、鵜島さんの楽曲、熱い歌詞がさらに強くしてくれたように思います。私の音楽の骨格に、筋肉を付けてくれた。『いつの日か』という曲では、自分で歌っていて、きみの後ろに道はできる、という歌詞で泣きそうになりました。私の人生にリンクする曲をたくさん作ってもらいました」と振り返った。

 米倉は横浜市で両親、姉の4人家族、クラシックと映画音楽に囲まれた家庭で育った。ピアノを習っていたが、幼い頃から人見知りで恥ずかしがり屋だったという。中学時代は赤面症で、テレビに映る芸能人の顔を直視できないほどだった。それでも家にあったLDカラオケで松田聖子や中森明菜をこっそり歌っていたという。そして卒業式前の謝恩会で転機が訪れた。のど自慢大会に参加したことだった。

 「高校では皆と別々になるので、最後に度胸試しで杏里さんの『悲しみがとまらない』を歌いました。すると優勝して、他のクラスの人からもすごい、良かったと褒めてもらったんです。笑顔も上手につくれない私でしたが、その時はありがとうと素直に言えました。歌を通じたコミュニケーションの素晴らしさを知って、歌手になりたいと決めました」

 進学した東海大相模では初心者ながら卓球部に入り、他者とのコミュニケーション力を磨いた。東海大ではボイストレーニングに通い、夢へと突き進んだ。ラジオ番組のオーディション企画で島田歌穂「君にできること」をカバーして注目された。23歳の時、「嵐の中で輝いて」に抜てきされ、キングレコードからデビュー。なお、ディレクターは島田歌穂「君にできること」も担当しており、判明した際は一緒に驚いたという。

 「全然笑うことができなかった中学時代が苦しかったので、デビュー曲の『嵐の中で輝いて』を歌ったとき、頑張ってきて良かったね、と言ってもらえてる気がして、だからこそ誰かの背中を押していけるようになれたらいいなとも思いました。運命的なものを感じる作品でしたね」

 プロとしてスタートを切った米倉。その一方、作詞家の渡辺なつみとは対照的に、鵜島さんとはレコーディングやライブで顔を合わせる機会はなかった。デビューしてほどなく、都内某所で行われた公開収録で、家族との買い物帰りにたまたま通りかかった鵜島さんとあいさつを交わしたのが初対面。次の対面はデビュー5周年記念公演の打ち上げだったという。

 「ディレクターがそういう方針でした。渡辺なつみさんとは度々お会いして、私も作詞をするのでアドバイスもいただいて、とても勉強になりました」

 鵜島さんと直接の交流が深まったのは、09年頃からガンダム、スーパーロボット大戦関連のステージで共演し、2011年に「Naked Soul」でコラボして以降だという。それ以前から既に、米倉の人生とリンクする楽曲が提供されたことになる。

 近年まで米倉の、鵜島さんの個人的なステージでも共演してきた両者。コロナ禍による休止から明けようとした際、鵜島さんは突然生涯を閉じた。米倉は「おとこ気があって、お酒が大好きで、ストレートにものを言う豪快な方でした。お酒を注意すると、素直に従ってくれて。チャーミングな面もありました」と故人を悼んだ。

 米倉は10月6日、鵜島さんの追悼ライブ「Remember  鵜島仁文 Trust you forever Anison LIVE SPS in IKEBUKURO」(東京・Hareza池袋1F harevutai)に昨年秋に続いて出演する。ゆかりのある長友仍世、TSUKASA、麻倉あきら、鮎川麻弥、MIQ、新井正人、ひろえ純、浜口祐夢といったガンダムシンガーが集結。また、10月1日には米倉自身が作詞作曲を手がけたデジタルシングル「Beginning Rebirth」をリリースする。

 「昨年は亡くなったばかりで、悲しくて涙が止まりませんでした。でも鵜島さんは今頃、天国でゆっくり美味しいお酒を召し上がりながらギターをつま弾いて歌ってるんじゃないかな。そんな鵜島さんを愛おしく感じながら、楽しい笑顔を届けたいです。そして私は、鵜島さんの魂が込もった楽曲を歌い続けて、お客さんが鵜島さんに会えるようなライブを続けていきたい」

 そう言って、米倉は表情に笑顔を浮かべた。

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