ある人にとって家族同然であるペットの死に対し、動物扱いすることによって当人を怒らせてしまったという苦い経験をした人がいるかもしれない。そんな時、あなたならどうする?「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が、そんな〝失言〟をリカバリーする対応策を解説する。
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【今回のピンチ】
落ち込んでいる同僚女性に「どうしたの?」と声をかけたら、長く飼っていた愛猫が死んだとのこと。うっかり「なんだ、猫か」と言ったら「ひどい!」と激怒された……。
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もちろん、言ってはいけない言葉なのは重々、分かっています。しかし、話の流れに落とし穴がひそんでいました。
「猫が死んじゃったの」だったら、すんなり「それは悲しいね」と言えたでしょう。しかし、まず「死んじゃったの……」と言われて、「えっ、誰が!?」と身構えたところに「猫の〇〇ちゃんが」となって、気の緩みから最悪の失言をしてしまいました。
激怒されたのもピンチですが、このままだと「冷酷で最低の人間」のレッテルを貼られて、社内にも悪評が広まりかねません。どうリカバリーすればいいのか。
明らかに自分に非があっても、どうにか言い訳を探そうとするのが人間の悲しいサガ。
「飼い主にとっては大ごとかもしれないけど、他人にしてみたらしょせんは猫だからね。こっちに同情を期待されても困るよ」
そんな思いが心に浮かんでくることもあるでしょう。当たり前ですが、口に出すのは厳禁。一瞬、もっともな理屈に思えなくもありませんが、「自分は想像力と思いやりが皆無の人間です」と言っているのと同じです。
ここは激しくうろたえつつ、全力で謝るしかありません。「ご、ごめん。ホントに申し訳ない。そんなこと言うつもりじゃなくて、ご家族の話かと思ってビックリしたら、そうじゃなくてホッとして、ついうっかり絶対に言っちゃいけないことを……」と、失言に至った経緯を説明しつつ、自分がダメな言葉を口にした自覚があることを強調しましょう。
きっと、相手の怒りは簡単には収まりません。しかし、自分は愛猫の死を軽んじたわけではなく、悪い条件が重なったが故の事故だったと説明しておくことは、いつの日か和解するための必須条件。そして失言の直後である今が、説明の最後のチャンスです。
ここで「いや、あの、その」と言葉を濁してしまったり、無意味なプライドが邪魔して素直に謝れなかったりすると、もう取り返しがつきません。「なんだ、猫か」と言われた怒りや、こっちへの軽蔑や憎しみの気持ちは、どんどん増幅していくでしょう。
うろたえてひたすら頭を下げる「みっともない姿」を見せるのは、ひどいことを言ったせめてもの贖罪(しょくざい)です。数日後、高級チョコレートの小箱の一つも買ってきて、改めて「このあいだは本当にごめんなさい」と謝っておくのもいいでしょう。
やがて時間が経って、相手の怒りが落ち着いた時に、直後のこっちの説明を思い出して「悪気はなかったんだから仕方ないか」と思ってくれるかもしれません。思ってくれないかもしれません。人事を尽くして天命を待つとは、このことですね。