あらゆる用途で作成される商業用イラスト。しかし、その執筆価格には明確な基準が存在せず、受注側も発注側も悩んだり、トラブルの種になるケースも……。そんなイラストの価格について明確な相場を示した表が、Twitterで話題となっている。
この表は、日本イラストレーター協会の会長である蟹江隆弘さんが作成し、同協会の公式サイト内のWEBページ「イラストの料金と著作権に関して」に掲載したもの。蟹江さん30年に及ぶ蟹江さん自身のイラストレーター経験に加え、イラスト制作会社の代表を務めた経験や、日本イラストレーター協会でのコーティネーター経験を元にして作成したという。
このWEBページでは雑誌などに掲載される小さなカットから、各種刊行物の表紙、広告用のイラストや企業のイメージキャラクター考案など、多岐にわたる商業イラストの大まかな相場価格が示されている。また、料金が決まるまでの仕組みや二次利用などの流用に関して、さらに著作権に関するポイントなど、イラストに関する仕事をしている人がトラブルに陥らないための情報が満載。明確な基準のないイラストの料金に関して、受注側も発注側も納得して仕事をするために有意義な内容となっている。
この料金表に関してTwitter上では
「こういうのあるんですね!ためになります…!」
「報酬の基準としてはわかりやすいですがこのリストみてAランクで要求する企業は多そうですね
下のポスター等のリストの方はかなり参考になります」
「正直安い値段でご依頼出すのも心苦しいし、かと言って払い過ぎになったり折り合い付かずに断るのもちょっと嫌だから、本音を言うと値段の目安とか出してくれるイラストレーターさんが増えてくれると依頼する心理的なハードルが下がって嬉しいですね」
などの意見が寄せられている。
このページの内容や意図に関して、蟹江さんに取材した。
──このページを作成した目的と、その背景にある問題点について教えてください。
蟹江さん:広告業界や出版業界でない一般の人たちにとって、イラストの料金は相場がわからないと思います。またプロのイラストレーターの方からも普段やっていないような案件が舞い込んだ場合、相場を聞かれることがよくあります。ある程度の基準があれば、料金を決める際の参考になると思い、作成しました。
──このページにある発注価格の表は、いつごろ作成したものでしょうか?
蟹江さん:はっきりとは記憶してないのですが、多分5〜6年くらい前だと思います。
──イラスト発注の「相場」を示すことに対して、気後れやためらいなどはありましたか? また、公開する際に他に感じていたことがありましたら教えてください。
蟹江さん:イラストの料金は本当にバラバラで、Twitterにも書かれているように安いと思う人もいれば、高いと思う人もいます。Twitterでレスしてる人の多くはプロのイラストレーターだと思うので、安いという意見が多いですね。
一般の人から見たら、高いと思う人も多いでしょう。私は今までに数千件の案件に関わってきた経験から書いていますので、気後やためらいなどは特にありません。
──デジタルイラストと手描きのイラストとでは、この料金に差が出ることはありますか?
蟹江さん:同じようなテイストであれば、デジタルと手描きで差はないと思います。ただし、手描きの場合は修正が難しい場合がありますから、修正料が別途発生する可能性が高くなります。
──このページに書き切れなかったイラスト料金決定のメカニズムがもしありましたら、教えてください。
蟹江さん:あらゆる要素が影響しますが、依頼者の懐事情が一番大きいです。依頼者の想定を超えたら受注できませんから、その辺は探り合いになります。
──このページの使い道について、どのような想定がありますか?
蟹江さん:相場が分からない時に参考にしていただければいいと思います。
──日本イラストレーター協会の名前でこのページを発表したことによって、どのような影響や反響がありましたか?
特にありません。見ている人もわずかですし、参考にする人もいるでしょうし、無視する人もいるでしょう。
──今後のイラストレーターへの発注価格に関して、何か実現してほしいことや希望などがありましたら教えてください
日本経済の停滞によって、バブル移行の30年間イラストの価格にほとんど変動がありませんでした。現在はあらゆる価格が上昇傾向にありますので、イラストの価格も当然上げていくべきだと思います。
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明確な基準が存在せず、受注側と発注側では立場の強弱も発生してしまうイラストの発注。日本イラストレーター協会という団体によって一定の基準が示されることの意義は、大きなものだと言えるだろう。
日本イラストレーター協会「イラストの料金と著作権に関して」:https://jpn-illust.com/guarantee.html